令和元年となった「2019年」も今日で終わりを迎えようとしている。
今年はゴーンショックだったり、吉本騒動だったり、京都アニメーション放火事件だったり、東日本台風被害だったり、暗いニュースも多かったなぁ。いやいや、テニスの大阪なおみとかバスケの八村塁、そして何よりラグビー日本代表とか、スポーツでは明るい話題も多かったよ。学術では旭化成の吉田彰さんがノーベル化学賞を受賞したし。身近なところでは10月に8%から10%に消費税増税が行われたね。キャッシュレスポイント還元っていうけど、カードもアプリも色々ありすぎてわけわかんないや。まぁ、天皇即位の儀とパレードも見られて、今年の漢字「令」が示すように、この1年間は総じてめでたい年だった!
多くの人がこのような振り返りを年の瀬にしたのではないだろうか。残念なことに、世間一般でいう令和元年の記憶の中には、ビットコインの「ビ」の字も存在しない。昨年であれば、記憶の良し悪しはともかく、状況は違ったのかもしれないが……。
しかし、彼らの無関心とは裏腹に、「2019年」は、ビットコインのジェネシスブロックが誕生してから10周年という、暗号資産・ブロックチェーン業界にとって記念すべき年であった。それを祝うにふさわしい1年間であったかどうかはわからないが、やはり今年もこの業界を震源地として先の社会を大きく変えうる出来事が起きている。以下では、暗号資産・ブロックチェーン業界の動向を改めて令和元年の一部として読者の記憶に残すために、四半期ごとの振り返りをしていこうと思う。
(チャート:Tradingview)
市場は米国政府機関の一部閉鎖で幕開け、2018年暴落の底値で価格は推移
2019/1月ー3月 価格レンジ 35-45万円(⇨)
2019年の市場は米国政府内の混乱から始まった。トランプ大統領と民主党議会とがメキシコの国境壁建設に関する予算案を巡って対立し、2018年12月22日以降政府機関の一部閉鎖が続いたのだ。最終1月25日にトランプ氏が妥協する形で事態は収まったが、その間に約30億ドルの経済損失が生じたとする米国予算局の試算もあり、影響は多大であった。
この影響は暗号資産・ブロックチェーン業界にも及んだ。米国SECのビットコインETF審査が止まったことで、CBOEはビットコインETFの申請を一時取り下げた。同取引所は、閉鎖が解けてから再申請したが、3月には市況悪化を受けてビットコイン先物市場からの一時撤退を発表し、9月には2度目となる申請取り下げを行った。
こうした中、国内ではコインチェックがNEMのハッキング事件以降、初めて金融庁より暗号資産交換業者の登録認可を受け、楽天ウォレットやディーカレットなどの新興取引所もまたこの流れに追随した。
そして、この間で何より大きかったのは、暗号資産に関する規制強化策を盛り込んだ、金融商品取引法(金商法)と資金決済法の改正案が閣議決定されたことである。のちに国会でも可決され、「暗号資産」への呼称変更やコールドウォレットでの資産管理の義務化、トークン発行者への金商法適用などが正式に法として定められた。2020年4月に施行される見通しであり、法案可決を受けて、国内交換業者は社内態勢の見直し等の対応に迫られることとなった。
イーサリアムクラシックのマイナー攻撃やEOSアカウントのハッキング被害など小規模な事件も見られた中、国内外では買い材料に乏しい相場が続き、2019年Q1の価格は2018年暴落後の底値付近で小幅に推移した。
Facebook業界参入とリブラの登場、価格は急上昇しBTC=150万円を記録
2019/4月ー6月 価格レンジ 45-150万円(⇧)
この時期に突如話題になりはじめたのが、米国テック大手であるFacebookの業界参入だ。4月末には同社代表のマーク・ザッカーバーグ氏が、ある講演にて「未来はプライベート」とブロックチェーンを示唆する発言をし、そのわずか数日後には、スイスで登記された子会社の名前から「リブラ」というプロジェクト名が明らかになった。
5月9日には昨年に禁止した暗号資産関連の広告掲載を再開し、これらの流れを受けてか、ビットコインの価格は急騰した。さらに、6月18日にリブラのホワイトペーパーが公開されると、価格は再び急騰し、ついにはBTC=150万円を記録するに至った。同時期には、業界最大手の取引所Binanceでハッキング事件が発生したが、補償対応等が過去に例をみないほどに迅速であったためか、相場への影響は限定的となった。
2019年Q2には、Q1の国内法案に続き、国際的な業界規制整備にも進展がみられた。6月21日に、マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(通称:FATF)が、既存金融機関向けの勧告ルールを一部改正する形で、暗号資産交換業者に対する新規制を採択した。具体的には、ライセンス・登録制の実施、銀行や証券会社などと同水準のKYC(顧客確認)や顧客管理の徹底などが、各国の仮想資産サービス提供業者(VASP=Virtual Asset Service Providers)に課されることとなった。これを受けて、今年大阪開催となったG20と同日に、業界要人や規制当局者などが集まり、国際サミット「V20」が開かれた。日本からはbitFlyerの加納氏らが参加している。
その他、徐々に存在感を強くしてきたリブラが、米国当局の目にかかりはじめたこの頃に、各国取引所が米国ユーザーをサービス対象外にする動きが加速した。
世界金融緩和の流れ、各国当局のリブラ批判相次ぎ相場は下落
2019/7月ー9月 価格レンジ 83-143万円(⇩)
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、2019年に入ってから、これまでの金融引き締め路線から緩和路線へと徐々に姿勢を転換していった。米中貿易交渉や香港デモをはじめ、世界経済の減速懸念が高まったことがその背景にある。
連邦公開市場委員会(FOMC)を通過するたびに市場では緩和転換への観測が強まり、7月になると、いよいよ利下げに踏み切った。10年以上ぶりの利下げともあって、グローバルマーケットで一喜一憂する場面はみられたが、年末にかけて米国株が史上最高値を更新し続けたことを考えれば、現状FRBの判断は上手くワークしているといえるだろう。そして、9月には欧州中央銀行(ECB)が後追いして昨年末以来となる緩和の再開を決定し、この流れは日本を含め世界的に広がることとなった。
緩和マネーの流入が期待される中で、これまでとは一転、暗号資産市場には強い逆風が吹き荒れた。トランプ大統領がTwitterの投稿でリブラに警鐘を鳴らしたことを皮切りに、米国上下両院の当局者たちが揃ってリブラへの批判を強めていった。7月12日にフランスで開かれたG7においてもリブラへの懸念で大方が一致し、その後も各国政府関係者による厳しい声が相次いだ。
米国利下げ直後の株安進行時にはビットコインが逃避先として資金を集め、Binance USの立ち上げやBakktのビットコイン先物開始など間口拡大の動きもみられたが、リブラ期待の剥がれに抗うことはできず、2019年Q3は大きく価格を下げることとなった。
国内ではLayerX福島氏(元:Gunosy社長)のMBOや取引所BITPointのハッキング事件、LINEの暗号資産交換業者登録などがちょっとした話題を集めていた頃である。
習近平発言とデジタル人民元、一時は値を回復するも中国取り締まり強化により再度下落
2019/10月ー12月 価格レンジ 75-112万円(⇩)
10月に入ってからも売り優勢の展開が続いていた中で、相場を大きく上向かせたのは、中国の習近平国家主席が直々に「ブロックチェーン」の名前を挙げて、前向きな発言をしたことであった。国家戦略とも受け取られたこの発言はたちまち各国メディアで報じられた。
その後も、暗号資産・ブロックチェーンに影響のある国家暗号法の成立や、一度は締めだすべき業界に指定された「暗号資産・マイニング」の容認、中国人民銀行(PBoC)による新たなフィンテック規制整備の方針など、中国の本気度を裏付ける動きが続いた。年末にPBoCがデジタル人民元のテストを深圳市と蘇州市で開始するとの報道もみられ、世界的にデジタル人民元発行に向けた中国の動向への関心が高まっている。
このように習近平の発言以降、中国でブロックチェーン熱が高まったことで、価格はBTC=100万円まで回復したが、その上昇は一時的なものであった。中国当局が国内で暗号資産投機熱が再燃したことを受けて投資家への警告を発したのである。さらに、業界関連企業への捜査・取り締まりも強化し、その影響からか、サービスを停止する取引所などもでた。
また、こうした監視強化の流れに同調して、国内SNSにおけるアカウント・投稿規制も厳しくなった。SNS大手Weiboは、「暗号資産」と「ブロックチェーン」を同時に含む投稿を禁止し、BinanceやTRONなど一部業界企業のアカウントを凍結した。結果、相場は再度押し下げられ、2019Q3からの弱気トレンドを脱するには至らず、現在も先行き不透明な状況が続いている。
なお、習近平発言前に価格が急落する場面もあったが、これについては、多くの論者が、量子超越性を実証したというGoogleの発表との関連性を指摘していた。
【令和元年】業界を通年で振り返って
「2019年」の暗号資産・ブロックチェーン業界を賑わせたのは、やはり米国のリブラと中国のデジタル人民元であった。このことに異論を唱える業界人はまさかいないだろう。
リブラが話題になりはじめたばかりの頃には、米国政府は少し冷や汗をかいていたかもしれないが、その他の国はどこか他人事で、それとなく私見を述べる程度であった。しかし、中国のデジタル人民元構想がいよいよ現実に近づいてくると、米国はもちろんのこと、どの国もそれを無視することができなくなった。各国政府で中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)に関する議論が盛んになり、最初は否定的なコメントばかりであったFRBやECBも、発言が曖昧な方向へと変わりつつある。各国政府同様にBRICSでも活発に議論され、その他、スウェーデンやガーナ、カンボジア、そしてイランや北朝鮮なども、CBDC発行に向けて積極姿勢を示している。
マーケットに関していえば、今年は、過去に暴落の引き金となった、取引所のハッキング被害による下げが予想外に小さかった。3月にはBithumb、6月にはBinance、7月にはBITPoint、11月にはUpbitと業界では名の知れた取引所が次々に被害を受け、これら以外にも流出事件は数々と起きている。にもかかわらず相場が大崩れしなかったのは、取引所の対策が進んだということなのか、被害規模の問題なのか、それとも投資家の心理的な慣れによるものなのか、その要因を明言することはできないが、少なくとも業界の堅固さが増したということはいえそうだ。
また、かねてより不安視されてきたBitfinexとTetherによる市場操作懸念については、Tetherが暗号資産取引の大半を占めるというブルームバーグの分析もあり、その疑いは未だ拭い去ることができない。しかしながら、その他ステーブルコインの台頭、そして今年5月にニューヨーク司法当局に釘を刺されたことで、その懸念は着実に弱まっているだろう。
以上、令和元年そしてビットコインのジェネシスブロック生誕10周年となった「2019年」の暗号資産・ブロックチェーン業界を振り返ってきた。金融あるいはIT業界にいるものであれば、結局は米国と中国かよ、という印象をもつかもしれない。
その通り。まさに金融とITとが交差するこの業界では、両国の一挙手一投足が大きな影響を及ぼしうるのだ。日本も少し前には暗号資産先進国と言われていたが、今ではすっかり身を潜めてしまった。とはいえ、ヤフーとLINEの経営統合にそれを打破する何かを期待してしまうように、我が国は我が国なりに業界の発展を推し進めている。
さぁ、東京オリンピックを控える「2020年」。世界そして日本ではどのようなことが起きるだろうか。ビットコインの価格を含め、業界動向を予測する機会はまた別に取っておこう。