特許数でみる中国のブロックチェーン業界事情:認可率は4%台

島田 理貴

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中国がリードするブロックチェーン特許市場

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図1:年毎特許申請数推移(WIPOのデータベースより集計して作成)

いきなりだが、まず上の図1を直感的に眺めてみてほしい。これは国別にブロックチェーン技術に関連する特許申請数の推移を可視化したものだ。青が合計、赤が中国だが、青と赤のグラフの形がほとんど一致していることがわかる。

中国のブロックチェーン技術関連特許は、2017年から申請数が伸びはじめ、2018年には急激に増加をみせた。その後、2019年はやや勢いに陰りがあったものの、2017年よりもハイペースで特許を申請していることがわかる。

言い換えれば、とくに2018年が急成長の年だったということになるが、その背景には2018年に中国国内でブロックチェーン関連企業が著しく増加したという事実があるだろう。

Qichacha(企查查)のデータによると、ブロックチェーン関連事業者の増加数は2017年で4097社、2019年で11416社だったのに対して、2018年は14359社が設立されている。それだけ特許の数が伸びるのは感覚的にも当然のことだ。

また、米国の申請数は中国には遠く及ばないものの、しかし、中国が勢いに弱りをみせた2019年に前年より多くの特許を申請していたことがわかる。加えて、日本がずっと低調なこともよくわかるだろう。

特許市場における各国のシェア

図2:特許市場シェア

図1をみればほとんど中国のリードは明らかだが、そのシェアがどれほどのものかについても確認しておこう。

上の図2をみてわかるとおり、これまでに出願されたブロックチェーン関連特許のうちほぼ7割が中国によるものであり、ブロックチェーンの技術開発において圧倒的な規模を有していることがわかる。

また先ほどのグラフまでは出てこなかったEUについては3.9%のシェアを獲得しているが、他方、日本は単独で3.3%のシェアを有しており、さほど低いわけではないことも了解されるだろう。

巻き返す米国、急停滞する中国

図3:3カ月単位の平均特許申請数の推移(2020年のみ3月24日までの実測値)

では2020年3月時点までの申請数はどうなっているのだろうか。WIPOのデータベースでは年別のデータしか取得できなかったため、大雑把だが、2020年のデータ以外の全数値を4で割り、年ごとにおける3カ月間ごとの平均申請数を割り出すことで、上の図3を作成した。

この図をみてどう思うだろう。各国ともそれぞれに特許申請のポリシーに違いがあるだろうし、一概に比較できるわけではないため、あくまでも参考程度に捉えてほしいが、しかし、ここにきて中国で一気に特許の申請が停滞している可能性を指摘することくらいは許されそうである。

対して米国では前年並みの特許申請数を維持している。今後よりハイペースで申請が進めば、世界の停滞トレンド(≒中国がリードするトレンド)に対して続伸という結果を突き返すことも可能かもしれない。

また、図3ではわかりにくいが、日本では2018年と2019年に3カ月平均で40.75の特許が申請されたのに対し、2020年は23であり成長に鈍化がみられる。

極端に認可率が低い中国の出願特許

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ここまで中国国内で行われる大規模なブロックチェーン技術の研究開発を特許申請数からみてきた。だが、この特許申請数という指標は、開発のおおまかな規模をみるのには適しているが、その内容まではみえてこない。

より正確な分析をするのならば、特許の用途や、特許製品化率、特許の失効が企業の業績に及ぼす効果、特許引用の有用性などを精緻にみていく必要がある。ここでそれらをすべて試すわけにはいかないが、ひとまず特許査定率(要はどれだけの特許が認可されたか)を確認して、どれだけ有効な特許が出願されてきたのかを確認しておこう。

『グローバルブロックチェーン特許レポート(全球区块链专利报告)』においては、特許査定率よりもより単純な認可率という指標がもちいられているが、これによると、2016年から2019年10月までにブロックチェーン技術関連特許における認可率は18.09%から4.48%に低下している。

一般的に特許査定率はおおよそ45%~75%程度を推移する指標であり、また、同レポートにおいては、IoTやAI、ビッグデータといった先端技術関連の認可率が25~40%程度であることもしめされている。したがって2016年にしろ2019年10月にしろ、中国におけるブロックチェーン技術関連特許の認可率はきわめて低いといわざるをえない。

停滞してもなお気が抜けない中国の動向

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なぜここまで認可率ないし特許査定率において低迷しているのかは定かではない。国家の開発計画としてブロックチェーンを推進しているためにより慎重な特許審査を実施している可能性もあるが、IoTやAI、ビッグデータといった分野でも条件は同一であり、それだけではこの認可率を説明することはできない。また海外に提出された特許もあるため、やはりこの仮説を立証することは難しいだろう。

一番わかりやすい要因は、出願されている特許の質が低いということになるが、しかし、これを判断できるほど筆者は特許というものに慣れ親しんでいないし、その内容如何についても判断しかねる。

ただ素人なりにいえるのは、この認可率ないし特許査定率の低さだけをみて、胸をなでおろしても仕方がないということである。中国はすでにCBDCの発行に王手をかけているし、またコンソーシアムやブロックチェーン特区に対する出資額も日本や米国とは桁が違う。

※なお中国人民銀行が主導するCBDCであるDC/EPプロジェクトについては以前にもいくつか記事を掲載しているため、そちらも参考にしてほしい。

記事リンク1:中国が発行するデジタル通貨DC/EPとは?
記事リンク2:デジタル人民元は米ドル覇権への挑戦なのか

数字にあらわれる見かけほど中国でブロックチェーンの採用が進んでいるかどうかは判然としないが、しかし、それを差し引いても、ブロックチェーンの世界においてトップを走っているのは中国だろう。ブロックチェーンに関心をもっている読者は是非とも中国の動向に注目していただきたい。

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