NBAがアツい!ブロックチェーンがつくるスポーツ業界の未来とは

松嶋真倫

北米四大プロスポーツリーグの一つ「NBA」。Forbes誌が昨年に発表した、世界アスリート長者番付100では、ランキング中35人をNBA選手が占め、種目別の総稼ぎでもバスケットボールは他の人気スポーツをおさえて1位となった。この世界でもっともお金が集まるスポーツリーグは、かつて日本人未踏の地といわれていたが、最近では、渡邊雄太選手や八村塁選手といった日本人選手が大いに活躍している。

「NBA」といったときには、そんな超人セレブたちのダイナミックでゴージャスな世界や、おなじ日本人が彼らを相手に第一線で戦っている勇姿ばかりが、どうしても注目されがちだが、その裏で、ブロックチェーンを活用したさまざまな最新のとりくみがおこなわれていることをご存じだろうか。以下では、それらを紹介し、スポーツ業界におけるブロックチェーン活用の可能性について考える。

NBA選手のスーパープレーの瞬間をデジタルアセット化


NBAは昨年7月に、CryptoKittiesなどでも有名なブロックチェーンゲーム企業Dapper Labsと提携して、「NBA Top Shot」とよばれるゲームプラットフォームの開発を進めていると発表した。同ゲームは、選手のスーパープレーの瞬間をデジタルグッズとしてアセット化し、それらを収集・売買したり、ユーザー同士の対戦に利用したりすることができる。

Dapper Labs社のCEOによれば、「ゲームをつうじて、バスケットボールファンは好きな選手やチーム、そしてファン同士の交流を楽しむことができる」という。

提携企業:Dapper Labs
ブロックチェーン:Ethereum

NBA選手のチーム契約を証券化


昨年9月に、NBAのBrooklyn Netsに所属する、Spencer Dinwiddie選手(以下、SD)は、「DREAM Fan Shares」というプラットフォームをつうじて、自身の「SD8」トークンを発行し、契約金の一部を担保に資金調達すると発表した。トークンの価値はチームとSD選手との保証付き契約によって裏づけられており、保有者は定期的に元本と利息を受けとりながら、選手の活躍によってボーナスが生じた場合には、その一部を得ることもできる。

SD選手はこのとりくみについて「ブロックチェーンによってアスリート契約の証券化が可能になった、その利点の調査に参加できることをうれしく思う」と述べている。

提携企業:Paxos
ブロックチェーン:Ethereum

NBAチームトークンを発行


NBAのSacramento Kings(以下、Kings)は、ビットコインの支払い受付やマイニングへの参入など、とくに暗号資産やブロックチェーンの利用に積極的なチームとして知られている。そのKingsは昨年10月に、同チームのモバイルアプリ「SacramentoKings+Golden1Center」内で使用可能な、独自トークンを発行することを発表した。「Kingsトークン」と名づけられたトークンは、アプリから参加ができる予測ゲーム「Call the Shot」の報酬としてファンたちに付与され、イベント参加やチームグッズ、観戦チケットなどと交換することができる。

提携先であるBlockpartyのCEOは「NBAの他のチームが、この先数年間でKingsのとりくみに追随してくれることを期待している」と語っている。

提携企業:Blockparty
ブロックチェーン:Ethereum

NBA限定グッズの真贋をブロックチェーンで保証


Kingsは今年1月、ブロックチェーンを活用して限定グッズの真贋を保証した、新たなオークションプラットフォームを発表した。具体的には、1月15日におこなわれたDallas Marvericks戦で、Kingsの選手が着用していたジャージのオークションを実施し、それが本物であることをConsensysのサプライチェーンプロダクト「Treum」をもちいて証明した。アリーナで試合を観戦しているファンから、自宅で観戦しているファンまで、誰でもKingsのライブオークションアイテムに入札することができる。

KingsのCTOは「ブロックチェーンによって、ファンが本物のゲーム着用商品をリアルタイムで安全に購入する機会を得ることができる」といい、年間で総額54億ドルと評価される、米国のスポーツ記念品市場の健全化をはかっている。

提携企業:Consensys
ブロックチェーン:Ethereum

以上、NBAでのさまざまなとりくみを紹介してきたが、NFTトークンを活用したデジタルアセット化や、セキュリティトークンをつかった資金調達、ユーティリティトークンを利用した価値交換、そしてデータベースとしての真贋証明など、ここではほとんど網羅的にブロックチェーンの活用が検討されていることがわかる。

スポーツ業界におけるブロックチェーン活用の可能性


小国規模のヒトとお金が集まるこの世界において、いままさに起きようとしていることはなんなのだろうか。先のNBAのとりくみから、スポーツ業界のこれからを私なりに思いえがいてみよう。

とくにチームスポーツに焦点を当てたときには、これまでのスポーツ業界では、リーグの運営組織と構成チームとに権力が偏っていた。まさにルールを決める政府とそれにしたがう企業といった縮図である。チームに雇われる選手たちは、従業員、そしてあるときには商品さながらで、いってしまえばチームに利益をもたらすための道具でしかなかった。そのなかでファンたちは、試合に熱狂する立場でありながら、リーグの方針に意見を届けることは叶わず、あくまで外からお金を落とす消費者にすぎなかった。

ところが、いまの社会で個のエンパワーメントが加速しているように、スポーツ業界においても選手やファンが主体となって、リーグに価値をもたらす時代が訪れつつある。その潮流のなかで、NBAがいちはやく目をつけたのがブロックチェーンであり、もしこれが上手くいけば、おそらく野球やサッカーなど他の競技にも波及していくことになるだろう。実際に、野球のMLBやサッカーの欧州リーグなどでは、NBA同様にブロックチェーン活用に積極的なチームも一部にみられる。
では、選手やファンが主体となってリーグに価値をもたらすとはどういうことなのか。

まず選手については、これまでどおりプレー重視で評価されるという点で大きく変化はない。しかし、その評価が年俸にしかあらわれなかったのが、「人気」や「歓喜の瞬間」の可視化によって、自身やチームに関連するトークンの価値にも反映される。つまり、選手が活躍すればするほど、観戦チケットやグッズ販売とは別のところで、チームそしてリーグ全体の価値に寄与することができるのである。また、その活躍によって得た利益をファンに直接還元することにもつながるだろう。

一方で、ファンについては、リーグの外ではなく内側から、お金に依拠しない、いろいろな方法で働きかけることができるようになる。トークンを得るためのゲーム参加にはじまり、トークンの保有や交換、さらにはそれをもちいたサービス利用によって、みずからも選手やチームを応援し、リーグを盛り上げることができる。それは試合会場の外からでも、である。また、こうした活動をつうじたファン同士の交流に新たな価値をみいだす人も多くいるだろう。

最後に、リーグの運営組織やチームそれぞれにとってはどうかと問われれば、嬉しいことの方が多いに違いない。ブロックチェーンによって、お金目的の偽造品販売業者を締めだしながら、選手そしてファンと一体となって、リーグをつくりあげることができるのである。NBAでいうなれば、そこにバスケットボール嫌いの人間は一人も存在するはずがない。

「お金・運営主体のリーグ」から「スポーツを愛するみんなのリーグ」へ
当たり前にあるべき姿と思うかもしれないが、それがブロックチェーンによって、いままさに現実になろうとしている。

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