ビットコインで給与を支払いアフガニスタンの女性を救うスタートアップ

島田 理貴

Afghanistanの女性のイメージ

アフガニスタンの性差別の現状

アフガニスタンの歴史は、女性の権利を主張する者と、女性を抑圧する社会との戦いの歴史でもある。タリバン政権が崩壊した2001年以降、悲惨な抑圧の現状が世界中に知られることとなったが、それ以前にも多くの女性の権利の歴史があったことを忘れてはならない。

たとえば、ティムール朝初期にあたる14世紀に活躍し、サマルカンドからヘラート(すなわちウズベキスタンからアフガニスタン)へ遷都したことでも知られるGawhar shad(ガウハール・シャード)皇后は、女性に教育機会を与えるために学校を設立した。いまでもアフガニスタンには彼女の名前が冠された高校がある。

1933年から40年ものあいだ、アフガニスタンの国王を務めたZahir Shah(ザーヒル・シャー)は、1964年に女性を含むすべてのアフガニスタン人に人権を認めることを明記したリベラルな憲法を制定した。彼の時代から、女性は教育機会と投票権を得たのであった。また、女性のベール着用廃止を唱えたのも彼である。

その後、クーデターにより王政が廃止されると、かろうじて、都市部では「アフガニスタン女性革命協会(RAWA)」が結成されるなど、女性の権利に関する市民運動の萌芽的形態がみられたものの、やや低調な時代に突入する。

急激な変化がみられたのは、1994年以降である。そう、タリバンの台頭だ。JICAがアーカイブする報告書にはつぎのように述べられている。

タリバンは、女性の教育や雇用を禁止し、ブルカなしでの女性の移動を制限し、人身売買や投獄などをおこない、女性に対する弾圧を強化した。このような弾圧は、2001年米英軍による攻撃でタリバンが撤退するまで続いた

タリバンが撤退したあとはどうなったか。現在では数百万人の少女たちが学校で学び、労働が許可され、数十人の女性議員が生まれている。

近年ではタリバンも穏健化し、米国と和平交渉を進めているとの報道も一時話題になった。だが、JVCの報告によれば、タリバンの勢力圏内にある地域では、依然として女性に対する暴力は増加傾向にあり、アフガニスタン全体でも「殺人、殴打、切断、酸による攻撃」が依然として広がっているという。

アフガニスタンの女性たちは依然として深刻な人道被害に直面しているといわざるをえないだろう。

ビットコインがアフガニスタンの女性を金融包摂する

ウォレットと女性のイメージ
だが、暴力や教育機会といった問題以外にも、我々の関心にとって重要なことがある。それは、アフガニスタンの女性と金融へのアクセスの問題である。

1つ、事例を挙げて解説しよう。

Roya Mahboob(ロヤ・マフブーブ)氏は、アフガニスタン初の女性IT起業家であり、米TIME誌「世界で最も影響力のある100人」の1人である。

彼女の功績は枚挙に暇がないが、1つだけ、きわめて重要だったのは、彼女が、アフガニスタンの女性に金融へのアクセスを与えたことである。

Mahboob氏は、2012年に中央アジアやアフガニスタンの女性によるブログコンテンツプラットフォームを発足した。彼女たちの記事が読まれれば、広告収入が生じ、そのうちのいくらか彼女たちに分配するというビジネスモデルであった。だが、その報酬を送金する段になってあることがあきらかになる。

なんと彼女たちは銀行口座をもっていなかったのだ。じつはあるレポートによると、2014年に口座をもっていた女性は4%にも満たず、2017年の別のレポートでも、たったの7.2%しかいなかったのである。

そもそもアフガニスタンの女性は男性と比較して低賃金であるが、それにくわえて、彼女たちは自分のお金を自分で管理することすらできない状況にあったのである。

Mahboob氏は途方に暮れたが、最終的にはBitcoin(ビットコイン)で報酬を支払うことに決めた。なるほど、たとえ現金で直接支払っても、それを強権的な夫や男性から隠すことは容易ではない。男性はいまだ暴力の手をとめない。

彼女たちが汗水垂らして得たお金は、伝統という正義のもとでもぎとられてしまうのである。だが、Bitcoinはそのような強権的な人びとから資産を隠すのにちょうどよかった。物理的に没収しようという試みは遂に失敗するだろう。。それに銀行口座も必要ない。

こうして、女性はなにも手を差し伸べてくれない銀行よりも、暗号資産を選んだのである。あるインタビューで、Mahboob氏は、夫による虐待に苦しんでいた1人の女性クリエイターが、このプラットフォームをつうじてBitcoinを貯め、遂に経済的自立を果たし、夫との離婚を実現したことを語っていた。

女性は暗号資産によって、経済的自立の希望をようやく見出したのである。つまり、みずからの権利を主張する足場を手にいれたのである。これは大きな一歩といっていいだろう。

Libra(リブラ)は「金融包摂」といって貧困地帯でも金融サービスが受けられることが強調されているが、貧困層以外にも金融包摂されていない人びとは多くいるはずだ。そのことに気づかせてくれるという意味でも、Mahboob氏の功績は華やかなものではないだろうか。

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