ブロックチェーンでハラスメントに「NO」を突きつける、Vault Platformの取組み

島田 理貴

拒否する女性のイメージ

ハラスメントに対抗するために声を上げる

#MeToo運動が盛り上がりをみせていた2017年末に、ある1人の英国人女性が立ち上がった。彼女の名はNeta Meidavという。

Meidav氏は、上司からセクシャル・ハラスメントの被害を受けていた時期があったが、このとき、彼女は誰にも報告せず、沈黙のままに会社を去った。

しかし、#MeToo運動がMeidav氏に使命感を宿らせた。そして、Meidav氏はVaultを立ち上げた。Vaultはブロックチェーンの耐改ざん性を応用して、ハラスメントをはじめとするあらゆる不正行為の追跡、記録、エビデンスの保存、告発などを実現するプラットフォームである。

Vaultのプロダクト紹介ページには「職場での違法行為の75%は報告されていない。その埋もれた問題は、これまで以上に組織とその人々に影響を与えている」と表示されている。ある時期のMeidav氏も、この内の1人であった。

だが、このメッセージから読みとれることは、Meidav氏の想いだけではない。もう1つは、Vaultがセクシャル・ハラスメントだけを問題にしているのではないということである。Vaultの射程圏内には職場における不正行為すべてがある。

あらゆる不正行為に、あらゆるバックグラウンドがある。そして、ハラスメント一般に、加害者と被害者それぞれの人生があり、また、セクシャル・ハラスメントと一口に括ってみても、それぞれのバックグラウンドを無視していては、その解決は遠のくばかりである。セクシャル・ハラスメントという語が光を当てるのは、わずかにその被害の一側面だけである。

だが、たしかに効果のある、根本的解決の手段が1つだけある。それは「声をあげること」だ。そう、Vaultはまさに声をあげるハードルを下げるプラットフォームなのである。

1人ではなく、みんなで声をあげる

socialMovementのイメージ
しかし、仮に、ハラスメントの被害を受けた人が個人で声をあげたとしても、それを支持し、被害者とともに戦おうとする人は、そうそういないだろう。#MeToo運動が力を得たのは、それが「社会運動」の域に達したからである。

また、仮にハラスメントが行われている組織のなかに、周囲の疑念をものともしない勇敢な人が潜在的にいたとしても、被害者が個人である限り、誹謗中傷、報復人事、被害のエスカレートのリスクは、被害者の口にプレッシャーをかけ、告発は見送られてしまうだろう。

Vaultが画期的なのは、なにもブロックチェーンを利用していることだけではない。Vaultには「Go Together」とよばれる機能がある。これは、告発につきまとうさまざまな心理的障壁を乗り越える力となる。

Vaultにおいて、告発の手段は3つある。1つは、みずからの名前を公表し声をあげる、もっともダイレクトな手段。もう1つは、匿名による報告。もちろん、どちらも勇気のいる行為ではあるが、被害者からすれば、匿名にしたからといってリスクがなくなるわけではない。

そこで3つめの選択肢、「Go Together」である。これは「共に声をあげる」ための機能である。「Go Together」機能を使用する場合、不正はすぐさま報告されるわけではない。まず、不正行為の証拠が集まるのを待つのである。

証拠を集めるのは、被害者だけではない。おなじ被害を受けている人、ハラスメントの現場を目撃した人、誰でもいい。組織内の人びとの善意によって集積された不正行為のレポートが、ある一定の量を超えたとき、遂に被害の全貌が表沙汰になるのである。

Vaultは組織内にあらゆる恩恵をもたらす

喚起する女性のイメージ
Vaultが直接的に役立つのは、あくまでも不正行為の告発に対してのみである。だが、間接的には、Vaultの存在そのものが、組織内の不正行為を未然に防ぐはずだ。

また、あらゆる組織において不正行為は「ガン」そのものである。組織のメンバーのあずかり知らぬところで、訴訟や社会的制裁のリスクを増大さえ、また損害賠償や生産性の低下という形で、経済的損害すら生みだす。Vaultはこの「ガン」を駆除する最適なソリューションであるといえるだろう。

むろん、まるでパノプティコンのような、相互監視の社会になる可能性は否定できない。一般的に、監視体制の強化は人びとの心に規律と制裁を内在化させる。だが、Vaultの目的はそのような全自動監視社会をつくりあげることではない。

Vaultは単にいままで声をあげられなかった人たちに、力添えするだけである。それがどれほど価値のあることかは、これから声をあげていく人たちが決めることだろう。そして、このプラットフォームのつかい方も、そういった人たちが決めていくことなのだろう。

また、自分の所属する組織にこのプラットフォームが導入されていなかったとしても、落胆する必要はない。幸い#MeToo以降、声をあげる手段は多様化し、あらゆる選択肢が我々の眼前に提示されている。必要なのは勇敢な心と、正しい拡声器の選択である。

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