イーサリアムクラシックとは?イーサリアムとの違いや将来性を再測定

島田 理貴

イーサリサムクラシックのイメージ

Ethereum Classic(イーサリアムクラシック)とは、スマートコントラクトのパイオニアとして知られるEthereum(イーサリアム)からハードフォークして誕生したブロックチェーンおよびそのネイティブトークン(ETC)である。

今回はこのイーサリアムクラシックについて、その歴史をまとめてみよう。

ハードフォークのきっかけとなったThe DAOの「DAO」とは?

分散ネットワークのイメージ
繰り返すが、イーサリアムクラシックは、イーサリアムからハードフォークしたブロックチェーンだ。ハードフォークのきっかけは「The DAO事件」として知られる不正流出事件である。

The DAOの「DAO」とは、Decentralized Autonomous Organizationの略称で、日本語に訳される際には「自律分散型組織」となる(本稿ではDAOに統一)。

一般的に国家や企業においては、政府や取締役会といった中央管理者が存在し、彼らが組織の運営の指揮をとるのだが、DAOという言葉がしめす組織とは、この中央管理者が不在のものである。

DAOという言葉が生まれたのはイーサリアムのようなスマートコントラクト機能をもったブロックチェーンが誕生したあとのことであり、基本的にDAOというときには、スマートコントラクトに記述されたプロトコルなり、その他の情報技術におけるプロトコルが、組織の活動を制御することを前提とする。

近年のDAOの状況を鑑みるに、「ブロックチェーンを利用した中央管理者不在の組織」のことをDAOとよぶと考えて差支えはない。Bitcoin(ビットコイン)のマイナーネットワークもある種のDAOといっていいだろう。

The DAOとは?

ファンドのイメージ
そしてこのようなDAOの発想を投資ファンドに当てはめたプロジェクトがThe DAOである。

The DAOでは、イーサリアムのスマートコントラクトに記述されたプロトコルに従って、The DAOへの参加、ファンドへの資金調達、投資先の提案・決定といったあらゆるファンド運営に必要な業務が遂行される。

一般的な投資ファンドを思い浮かべればわかりやすいだろう。一般的な投資ファンドは、投資会社がポートフォリオを構成し、投資家から資金を集めて運用される。投資された資金の管理も投資会社の手による。

しかし、The DAOの場合、運用方針は誰かが勝手に決めたものではなく、参加者の投票によって決められたものであり、また、資金を管理するのは人や会社ではなく、スマートコントラクトである。

このような性質から、The DAOはきわめて革新的なプロジェクトとして世間から受容され、運用開始前に実施されたThe DAOトークンのICOでは11,000人以上の投資家から計150億円もの資金を調達した。

The DAO事件への対処法論争

ミーティングのイメージ
しかし、投資家たちの熱狂も束の間のことで、ICOの1か月後には、The DAOのスマートコントラクトに潜んでいた脆弱性をハッカーに突かれ、The DAOにプールされていた364万1,694ETH、当時のレートにして約50億円が流出してしまう。

だが、不幸中の幸い、被害者やコミュニティには対策を練る時間があった。というのも、狙われた脆弱性の仕様上、ハッカーの手に資金が渡るまでに28日間待つ必要があったからだ。

そこでイーサリアムコミュニティのメンバーは対処方法を議論し、最終的に3つの案を提示した。

1つめはなにもしないという案。この事件はイーサリアムのしくみやコードに脆弱性があったから発生したというわけではなく、The DAOのスマートコントラクトに脆弱性があったからこそ起きた問題である。そのためイーサリアム側ではなにも手を加える必要はないと考えたのである。

もう1つは、ソフトフォークを実行して盗難された資金の移転先となっているアドレスを無効化するという案。この案を採用した場合、被害者に資金が戻ることはない。

最後の案は、ハードフォークを実施して事件以前のブロックにまで戻るというもの。事件発生以降のすべてのトランザクションをなかったことにすることで、被害者には資金が戻るし、ハッカーの手にも資金は渡らないで済むというわけである。

そして第三者投票の結果、実際に採択されたのは最後のハードフォーク案であった。たしかに盗まれた資金を取り戻すのだから一見すると「善良な」判断のようにもみえる。

だが、その陰でThe DAO事件とは関係のない資金やスマートコントラクトまで影響を受けるし、なにより、一部の受益者のためのハードフォークは、ブロックチェーンに対する、ある種の中央集権的な「検閲」であり、イーサリアム自体が目指していた「DAO」の理念に反している。

これによってイーサリアムコミュニティで反発するユーザーが続出するのである。

イーサリアムクラシックの誕生


このハードフォーク後、多くのメンバー(全ノードの約80%)が新しいバージョンのイーサリアムに移行した。イーサリアムクラシックの公式HPは、このときのことを「世界中でシャンパンのコルクがポンポン抜けた」と表現している。

多くのイーサリアムコミュニティの人びとは、ハードフォーク後、元のチェーンは数時間以内に消滅するだろうと予測していた。しかし、予想に反して、一部のマイナーが分岐前のオリジナルバージョンでマイニングを続行し、また、生成されたETCはOTC取引によって市場に流通していたのである。

ハードフォークの3日後にはPoloniex取引所に「ETC」が上場し、その他の取引所もこれに追随する。このあとしばらくはコミュニティ内で混乱が続くが、2016年8月にイーサリアムクラシックの公式ページで独立が宣言され、完全に別個のブロックチェーンとして開発が続けられていくことが決定された。

だから、実際にはイーサリアムクラシックは「誕生」したというよりも、「継続」されているといったほうが的確な表現なのかもしれない。イーサリアムクラシック陣営に、イーサリアムの創始者Vitalik Buterin(ヴィタリク・ブテリン)氏は不在だが、ヴィタリク氏がつくったブロックチェーンは、いまやイーサリアムクラシックとして継続されているのである。

イーサリアムクラシックの特徴:イーサリアムとの違い

比較のイメージ
イーサリアムクラシックは、イーサリアムと比較したとき、仕様という面でもいくつかの違いがあるが、もっとも明確な違いはやはり理念である。

イーサリアムクラシックの独立宣言から少しだけ引用してみよう。

コードは法である(Code is Law)。普遍性、代替可能性、台帳の神聖さといった特性に反するようなコードの変更はありえない

またイーサリアムクラシックが誕生した直後に実施されたハードフォークについては、公式ブログ上で次のように述べている。

イーサリアムクラシックプロジェクトは、ハードフォークがプロトコルレベルのバグ修正や、セキュリティの脆弱性の修正、機能のアップグレードという場合においてのみ認められ、ハードフォークによって失敗した契約や特別な利益を救済しないことを初期の段階で明示していた

2つの引用をまとめると、コードとして記述されている仕様こそがすべてであり、コーディングによる損失がハードフォークによって救済されることはなく、技術上必要なだけのハードフォーク以外は承認されないということになる。

こうした理念はイーサリアムにはない特徴といえるだろう。

とはいえ、理念以外の部分に目を向けると、The DAO事件によるハードフォーク以降、しばらくは価格や開発コミュニティといった面以外でイーサリアムとの差異は明確ではなかった。

だが、時間の経過とともに少しずつ両者の開発コミュニティで方針に差が開きはじめ、2017年3月には、ビットコインと同様に「発行上限枚数」や半減期に近い「削減期」が採用されることが発表された。

これ以降、イーサリアムとの明確な差異化が意識されはじめる。たとえば、イーサリアムがPoS(Proof-of-Staking)に移行を予定している一方で、イーサリアムクラシックはPoW(Proof-of-Work)を堅持する意向をしめしている。また、近年ではIoT分野に目をつけ、IoTの基盤技術として機能することをめざしている

イーサリアムクラシックの将来性

未来のイメージ
イーサリアムクラシックの将来性について考えてみると、まず現行のDappsプラットフォームと同じ土台での競争は困難だろう。

イーサリアムがすでにDapps開発基盤のデファクトスタンダードとなってしまった以上、DeFiやDappsゲームという分野で、イーサリアムクラシックが巻き返すことは現状きわめて困難だ。

しかし、テクノロジー全体の潮流をみたとき、まだ「IoT×ブロックチェーン」はブルーオーシャンであり、またIoTという分野自体もまだまだ発展途上の段階にあるため、スケーリングの可能性は十分にあるといえるだろう。

また、イーサリアムがPoSに移行した場合、イーサリアムでマイニングしていたマイナーに余力が生まれるため、彼らがイーサリアムクラシックに矛先を変える可能性もある。しかも、イーサリアムクラシックには発行上限があるため、削減期との兼ね合いによっては、マイナーが殺到するシナリオもありうるだろう。

おわりに


記事執筆時の段階におけるイーサリアムキャッシュの時価総額は15位(CoinMarketCap)であり、2位のイーサリアムと比較すると、やや元気がないようにもみえるが、しかし、最近ではイーサリアムの値動きとは独立した動きをみせることもあり、単なるイーサリアムの変種としてとらえると、その本質を見失ってしまうだろう。

また、Cord is Lawの信念を掲げているだけあって、学術的な手続きに則りながら、慎重に開発を進めていることで知られるCardanoの研究開発チームであるIOHKも開発に参加するなどエンジニアからの評価も高く、開発コミュニティの規模だけでは推し量れないポテンシャルの一端も垣間みえる。

Dappsプラットフォームとしてはいまひとつな印象を拭えないが、イーサリアムもDappsプラットフォーム競争において、いつまで先行者利益によるアドバンテージを活用できるかは不透明である。

この生存競争のなかで、IoT分野の基盤技術としてのシェアを獲得することは決して無理な話ではないのではないか。今後の展開に期待したい。

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