ビットコインにクジラの影、市場と価格の推移を考察

松嶋真倫

くじらのイメージ

さて、年が明けて、毎年の業界恒例行事がやってきた。「2020年」のビットコイン価格は果たしていくらになるだろうか、というあてずっぽうゲームである。この時期になると「専門家」を名乗る人たちが次々と自分たちの予想を恥ずかしげもなく披露する。そのほとんどが当たらないにもかかわらず、だ。

市場を上向かせる目的で多少大胆な意見を述べている部分もあるとはおもうが、彼らをあざ笑うかのように、ビットコインは毎年誰もが予想だにしない値動きをみせる。一体なぜなのか。その理由をかんがえながら、私も昨年同様一人のアナリストとして今年度の価格動向を見極めたい。

その前に、まずはビットコイン市場の現状をみておこう。なお、今年の予想はnoteに投稿している。よければ、そちらも一読していただきたい。

(1)逃避資産としてのビットコイン

逃避先のイメージ
ビットコインの性質をかんがえた時に、かねてよりいわれてきた「デジタルゴールド」すなわち逃避資産としての性質を否定する者はいまや少ないだろう。

まず、国からの逃避だ。年明けに中東の緊張が高まったことを受けて価格が伸びたことからも、そのことを確認することができる。とくにトルコやベネズエラ、アルゼンチンなどの新興国では自国通貨に代わる信用の拠り所としてビットコインはこれまでも注目を集めてきた。

また、逃避という意味では、国ではなく株式市場からの流入もある。昨年、米国の金融緩和転換を受けて株価が急落したタイミングでは、ビットコインは逆に価格が高騰した。かつては独立した市場としてみられていたビットコイン市場も、次第に株式為替動向の影響を受けるようになりつつある。

しかしながら、この他にビットコインの価格変動要因を挙げろといわれると、どうも回答に困ってしまう。業界環境の整備とともに企業や投資家の参入が進んでいる、という指摘はもっともらしいが、そうであるならばチャートは右肩上がりになっているはずであり、その他の暗号資産市場の現状をみても「業界の発展」ということだけではマーケットを到底説明しきれないのだ。

(2)データ至上主義に反し、人間の欲が渦巻くビットコイン

金銭欲のイメージ
米国のGAFAや中国のBATが各国政府を脅かすほどの巨大IT企業に成長したことで、データ至上主義の流れが世界的に広がっているが、この流れは株式市場においても同様である。金融機関のアナリストあるいはファンドマネージャーが俗人的に投資銘柄を分析する時代は終わりを迎え、AIを頼った銘柄分析や自動売買が主流になりつつあるのである。

国内だけを見ても、最近ではロボアドバイザリーサービスやAI投資信託など金融商品の拡充がすすんでいる。個人としては、自社の収益目的で売買を促す担当者よりも、データの方が信頼できるということなのだろう。

このようにあらゆる場面での活用が検討される「AI」は、膨大なデータがあってはじめて効果を発揮する。株式市場も然り。「株価」というとどうしても価格ばかりに目がいきがちだが、結局のところ、株価とは企業活動そのものである。企業がどれだけ利益を上げているか、どれだけ財務基盤があるか、どれだけ今後の成長見込みがあるか、といったことをさまざまな指標をもちいて数値的に分析することで、先行きを予測することができる。ときに政府が介入することで指標が左右されることもあるが、金利や為替についても過去のデータが蓄積されており、株価の予測においては当然これらも考慮される。

一方で、ビットコイン市場はどうだろうか。投資対象として認識されてまだ年月が浅いこともあるが、そもそも情報元となる発行体が存在しないため、なんのデータを投資判断にもちいていいのかが定かではない。

ノード数? アドレス数? もしくはハッシュレート? どれを採用するにも関係性が曖昧である。独自に指標をつくりだしている研究者なども散見されるが、現に有効なのは単なるチャートとしてのテクニカル指標くらいだろう。そしてなにより、発行体がなければ、各国政府が介入する術もない。そこにあるのは、データ、そして企業や政府に依らない、市場参加者の思惑だけである。

(3)「マイナーの損益分岐点が底値である」は正か

分岐点のイメージ
ビットコイン市場をかんがえる上で無視できないのが、ネットワークの安定に大きく貢献するマイナーの存在である。彼らはマイニング機器を製造あるいは購入し、さらに電気代等の諸経費をかけて、報酬=ビットコインを得る。投資家界隈では、その損益分岐点がビットコインの底値になっている、との見方があるが、個人的にこれは説得力があるようにおもう。

ここでは簡潔にかんがえるため、

コスト=マイニング機器 + 電気代
報酬=12.5BTC

とする。

(α)マイニング機器 + 電気代 >12.5BTCのとき
マイナーがとる選択肢として、以下の2つがかんがえられる
・余剰資金でBTCを買い支える
・事業撤退する

(β)マイニング機器 + 電気代 < 12.5BTCのとき
(α)と同様に、以下の2つ。
・機器を増やして総報酬を伸ばす
・BTCを売り事業資金を確保する

※ただし、マイニング機器の減価は困難であり、最初から電気代が安価な場所を選択していることを前提とする。

もちろん、前提(※)を除けば、大手マイニング企業であるビットメインで実際におこなわれたように、人件費の削減や海外事業所の一部閉鎖など、他のコストカット手法もかんがえられる。しかし、上記のようにみてみると、少なからずマイナーはBTCを売買することで事業をコントロールしていることがわかる。したがって、最低でもブレイクイーブンを保つように行動する、とかんがえるのが自然ではないだろうか。すなわち、それが底値である、ということができるのだ。この立場に立つと、今年5月に控える半減期の影響も予測しやすい。

(4)市場操作の懸念が消えない「鯨」の存在


市場参加者の中には「鯨」と呼ばれる大口保有者が一定数存在する、といわれている。それは個人かもしれないし、マイナーや取引所といった企業かもしれない。いずれにしても、彼らが相場を動かしているとの懸念はいまも消えることはない。これは流動性が改善すれば自ずと解決される問題ではあるが、現に、その懸念がぬぐい切れないということは、やはり参加者がまだまだ少なくかつ資産の偏りがあるということだろう。

たしかに、鯨たちがビットコイン価格の暴騰・暴落に一躍買っていることを否定するのは難しい。

しかし、ここで留意すべきは、彼らにとっても価格が下落しすぎることは好ましくないということである。つまり、市場から撤退する場合を除けば、真に”暴落”する可能性はきわめて低いといえる。そして、彼らは売買の仕掛けのタイミングも慎重に見きわめているはずだ。

どんなときか。それは「価格が動きそう」と一般に匂わせることができるときである。たとえば、昨年の習近平発言はわかりやすい。その影響で価格が上がったと一般投資家におもわせ、ある程度価格が釣り上がったのちに利ざやを抜くのだ。新規の買いがあってはじめて彼らは旨みを享受することができる。

(5)業界の健全化は着々と進んでいる


私は、昨年は我慢の年になり楽観シナリオでBTC=100万円程度と予想したが、今年は強気の見方をしている。

その根拠はいくつかあるが、一番は取引所のハッキング耐性が業界全体として強まったことにある。昨年に業界最大手の取引所バイナンスが被害に遭ったときには、「まさか」と価格の下落を懸念したが、それも彼らの盤石な社内態勢により杞憂に終わった。

おそらく今年もどこか攻撃される取引所はでてくるだろう。しかし今年は、暗号資産に関連して、国際的にはFATF勧告ルール、国内では改正資金決済法および金商法が本格スタートする年であり、流出事件による下げは短期的かつそれほど大きくないとみている。

また、ハッキングを除いたときに、昨年は業界内での悪いニュースがほとんどみられなかったこともかんがえを支援している。相場の影響を受けて破綻した新興企業もあったが、そのなかでも大手(有名)企業はリストラや事業縮小に留まっている。PlusTokenのような詐欺コインも話題になったが、かつてのICO隆盛期にくらべれば、悪徳なプロジェクトの数は相当減っている。価格ばかりに注目する各種報道の裏で、総じて、業界の健全化がすすんでいるのである。

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