Pornhubがテザーで給与を支払う:ポルノ業界でブロックチェーンの活用始まる

島田 理貴

Pornhub所属モデルへの給与支払いオプションにトロンベースのUSDTが追加

年間総アクセス数420億回を誇るポルノサイトのPornhub(ポーンハブ)は、1月23日、所属モデルに対する報酬の支払い手段に、Tether Holdingsが運営する米ドル建てステーブルコインであるTether(テザー・USDT)を追加したことを発表した。

USDTは、Ethereum(イーサリアム)、Liquid(リキッド)、Tron(トロン)など、いくつかのブロックチェーンプラットフォーム上で発行されているが、今回Pornhubが採用したのは、Tronのトークン規格であるTRC20準拠のUSDTである。

昨年11月に、オンライン決済サービス大手のPaypalが、「利用規約ポリシー」への違反を理由に、Pornhub所属モデルへの支払いを停止したために、Pornhubの運営者は対応を迫られていた。

もとより、Pornhubは暗号資産に前向きな姿勢をみせており、2018年6月には、有料会員サービスにおける決済手段にTron(TRX)やZencash(ZEN)といった暗号資産を追加した他、同年8月には暗号資産決済サービスのPumaPayと提携している。

また同月には、関連企業が運営するポルノサイト・Tube8が、カナダのブロックチェーン企業Vice Industy Token(VIT)と提携して、ブロックチェーンベースのプラットフォームを構築する計画を発表している。

Pornhubと暗号資産の急接近に対する反応


コメント欄には、Pornhubによるこれらの対応に対する、サポーターや所属モデルたちの歓迎があふれている。なかには、「Porncoin」や「Hub Coin」という新たな暗号資産のローンチを希望する声もあるが、それに対して「身バレ」の危険があるという懸念の声もあげられている。

また、TRON FOUNDATIONの設立者であるJustin Sun氏は、Twitterにおいて「もしPornhubにアクセスしているのなら、手を止めてください」と冗談をまじえながらも、「Paypalなどの集中型決済プラットフォームの被害者をサポートする素晴らしい方法です」と、Pornhubの対応に好感を表明している。

その他、暗号資産情報メディアを運営するThe Blockの共同設立者であるMike Dudas氏はJustin Sun氏を指して「マーケティングとプロモーションの完全な熟練者だ」と賞賛している。

日本のポルノ業界におけるブロックチェーンの活用


日本はコンテンツの供給量でみるかぎり世界有数のポルノ大国である。Pornhubが発表している2019年の検索ワードランキングにおいて、第1位は「japanese」であった。Tube8がブロックチェーンプラットフォーム化をめざしていることは先に述べたが、日本のポルノ産業においても、ブロックチェーン導入の動きがみられる。

たとえば、VRポルノコンテンツを制作する台湾のImmerse-Xは、ブロックチェーンを活用したオリジナルポルノコンテンツ制作者と、視聴者とをつなぐトークンエコノミーの形成をめざしているが、このプロジェクトのパートナーシップには、日本のポルノコンテンツプロバイダーのMAX-AやALICE JAPANの他、ポルノ女優事務所のMINE’sやDIAZ GROUPなどが含まれている

また、日本のポルノ業界健全化を推進するNGO・健全化協力会と、マーシャル諸島に本拠するプライベートファンドのCapiket Groupは、業界の再編と更なる健全化、コンテンツクオリティの向上をめざす活動を支援する目的で、CAP COIN(CAP)によるICOの実施を予定している。

国内最大手のポルノコンテンツキュレーションサイトと提携する他、CAP企画のポルノコンテンツをFANZAやMGSといったポルノコンテンツ販売サイトにて独占配信を開始しており、CAP上場に向けた準備を着々とすすめている。

ブロックチェーンがポルノ業界のなにを健全化できるのか


ポルノ業界に対する世間の目は優しくない。Pornhubが暗号資産による給与支払いをはじめたのは、Paypalがポルノを「忌避」したことが発端である。ポルノ業界の歴史は、なにも公的機関による規制との戦いだけではなく、世間や一般企業からの目との戦いでもある。だからこそ、ポルノ業界ではいつでも「健全化」の号令がかけられている。

「健全化」というときに、CAPが標的にしている問題は「資金調達」である。ホワイトペーパーでは次のように述べられている。

何故、アダルト産業が、犯罪組織との関係を持つ人達が後をたたないのか、という問題の根本は資金調達の難しさに有ると言っても過言ではありません……一般市場のように資金難になった時のセーフガードになる機関が無いため、一度不渡りを起こすと、その会社の信用は低下するのではなくゼロになります。そういう意味で、この業界で支払いは一般企業以上に生命線となります。そうなると、急な出費や思わぬ出費が発生した時、お金を貸してくれるのはサラ金や犯罪組織しかいません……そして、当然そういったところから借入をしてしまうと返済に窮して犯罪行為に手を貸してしまう・・・だから一般金融機関は貸出対象にしない・・・こうして業界は悪循環を続けてきた側面が有るのも事実です。

CAPは、業界と金融とが乖離している状況に警鐘を鳴らしているのである。その溝にこそ、犯罪組織やサラ金といった「闇の金融」の舞台なのである。

その意味で、CAPのような業界と一致団結し、監査機関も備える「新しい金融」がでてきたことは、いい傾向なのかもしれない。

おわりに


業界の健全化が進むこと自体を歓迎しないわけもないが、かといって、ポルノ業界の問題を金融の問題に一元化してしまうのはいかがなものかと筆者は考えている。

ポルノ業界に関連する法律や条例はいくつもある。児童ポルノ規制法、著作権法、職業安定法、労働者派遣法、売春防止法、風営法、淫行条例、刑法174条の公然わいせつ罪……。

このように列挙したとき、我々が気づかなければならないのは、まずもって「ポルノ」というものがきわめて政治的な問題だということである。

ブロックチェーンは政治的な課題に対してどのような働きをなせるのかは、未だはっきりとしたことはわかっていない。ビジネスの世界で喧伝される「トークンエコノミー」とか「価値経済」といった言葉は、どう考えても政治的な課題を含まざるを得ないはずだが、大抵、その手のプロジェクトにおいては上手に政治的問題が浄化されてしまっている。

消毒液をぶちまけたような香りの漂うブロックチェーン業界が、きわめて政治的な問題に関与するべきか否かは、永遠の課題として引き受けなければならないだろう。

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