ブロックチェーンは男性支配の社会に対抗できるのか

島田 理貴

スキルのある女性が急成長分野で除外されているのはなぜか

LinkedIn(リンクトイン)の共同設立者であるAllen Blue(アレン・ブルー)氏は、ダボス会議に登壇し、ブロックチェーンやAIといった急成長分野において、女性が除外されていくリスクを警告した

LInkedInの調査では、現在、ソフトウェアエンジニアリング、AI、ブロックチェーン、機械学習、データサイエンス、クラウドコンピューティングといった分野の技術職における女性の割合は30%程度である。

この不平等な状況は、女性のスキル不足が原因ではない。2000万もの職種に紐づいた6億6千万人のユーザーを抱えるLinkedInのデータは、むしろ、それらの分野で期待される役割を遂行するために必要なスキルを有する女性が、「隣接した分野」にいることを示唆していた。

急成長分野で人材不足が喧伝されているにもかかわらず、このような事態が生じているのは、それらの職に就くために必要な「ネットワーク」へのアクセスが閉ざされてしまっているからである。

これを踏まえて、Blue氏は次のように述べた。

時計を早送りして、これらの仕事に女性が少なすぎる場合、ネットワークは時間の経過とともにその分離をより強化する。したがって、5年ないし10年後には、女性が就く仕事と、男性が就く仕事との分離はより強固になり、ジェンダーの壁を打破することはさらに困難になるだろう。

つまり、現状の急成長分野における雇用配置に、いわゆる「ネットワーク効果」が働くことで、ジェンダーギャップがますます開いていくだろうということである。この予言は女性と雇用主の双方にとって不幸なものだろう。

しかし、ここで問題となっていた急成長分野の側から、ジェンダーギャップの改善をめざす動きがでてきている。

世界最悪レベルの性差別国家アフガニスタンでビットコイン支払い

Afghanistanの女性
米TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されたこともある、アフガニスタン初の女性IT起業家Roya Mahboob(ロヤ・マフブーブ)氏は、家父長制社会においてあらゆるネットワークから疎外されてしまった女性たちを暗号資産によって救った。

Mahboob氏は、2012年にアフガニスタンや中央アジアの女性クリエイターによるコンテンツプラットフォームを立ち上げた。だが、その報酬を彼女たちに送金しようとしたとき家父長制社会ゆえの深刻な問題があきらかになる。

彼女たちは銀行口座をもっておらず、送金しようにも送金先がなかったのである。それもそのはず、2014年の調査では、銀行口座を開設している女性は4%にも満たなかった。2017年の別の調査では7.2%である。アフガニスタンの女性は賃金が低いだけではなく、みずからの意思でお金をコントロールすることすら許されていないのだ。

そこでMahboob氏は、彼女たちへの報酬をBitcoin(ビットコイン)で支払うことに決めた。なぜBitcoinなのだろうか。

簡単なことだ。たとえ現金を手渡しで支払ったとしても、男性からの容赦ない暴力と脅しによって、そのお金は彼女たちの手から奪われてしまう。そういう社会なのだ。だが、Bitcoinであれば没収は難しい。隠しておくのも簡単だし、銀行口座も必要ない。

夫による虐待に苦しんでいたある女性クリエイターは、Bitcoinを貯めて経済的自立を果たし、離婚を実現したという。

ハラスメントに対抗するために声を上げる

metoo運動のイメージ
ジェンダーギャップと深く関係する、セクシャル・ハラスメントについても、ブロックチェーンを活用したとりくみがある。

職場の上司によるセクシャル・ハラスメントの被害を受けた経験のあるNeta Meidavは、#MeToo運動が盛り上がりをみせていた2017年末にVaultを立ち上げた。これは、ブロックチェーンを活用して、違法行為の追跡、記録、証拠の保存、匿名報告などを実現するプラットフォームである。

Vaultのトップページには「職場での違法行為の75%は報告されていない。その埋もれた問題は、これまで以上に組織とその人々に影響を与えている」とある。背筋が凍るようなメッセージだ。

だが、このメッセージを受けて、我々が気づかなければならないのは、Vaultがセクシャル・ハラスメントにのみ焦点を当てたサービスではないということだろう。それは職場における不正行為すべてを射程圏内に捕捉している。

どのような性別であれ、ハラスメントの現場にはそれぞれに固有の背景があり、簡単にセクシャル・ハラスメントと括ってみても、解決は遠のくばかりだろう。セクシャル・ハラスメントという言葉は、あくまでその被害の一側面でしかない。

だが、幸いなことに不正に対するもっとも効果的な対抗策はシンプルだ。「声をあげること」、これである。Vaultは、声をあげることに焦点を当てたプラットフォームだ。

たとえば、ハラスメント被害者が1人で声をあげても、それにつづく人はなかなかいない。また、仮に勇敢な賛同者が潜在的にいたとしても、被害者は報復人事、誹謗中傷、被害のエスカレートなどを恐れて、告発を躊躇してしまうことが多い。

しかし、Vaultの「Go Together」とよばれる機能は、このような心理的障壁を乗り越える。報告者には、3つのオプションがある。1つめは、自分自身の名のもとで告発する方法。2つめは、匿名報告である。どちらも勇敢な行為であることには変わりないが、しかし、被害者の心理状態によっては、まだ最適な手段とはいえないだろう。彼らが求めているのは、「共に」声をあげることである。

そこで3つめのオプション「Go Together」である。この機能はすぐさま不正を報告するのではなく、不正行為の証拠がブロックチェーン上に集積されるのを待つのである。

証拠はなにも自分ひとりだけで集める必要はない。同様の被害を受けている人が、あるいはハラスメントの現場を、そして、その一端を目撃した人がVaultに記録すればいいのだ。Vaultはおなじ加害者が紐づけられた不正行為のレポートが閾値に達したとき、それらをケースマネージャーに送り、被害の全容を告発するのだ。

声をあげやすくすることに焦点をおいたこのプラットフォームは、組織の健全化に役立つばかりではない。不正行為を事前に防ぐセーフティネットとして機能する他、組織の健全化自体が、経営にかかる負担を軽減するだろう。

ハラスメントは組織の財務状況に悪影響(訴訟費用、損害賠償、生産効率の低減……)を及ぼすことはあっても、ポジティブな作用をもたらすことはない。

ブロックチェーンや暗号資産に女性ユーザーを呼び込む

3人の女性
マレーシア、ベトナムを中心に30か国以上で暗号資産取引サービスを提供しているRemitanoは、ブロックチェーンの普及支援活動を行っている。

とくにブロックチェーン分野における女性参画の現状に強い問題意識をもっており、2019年の国際女性デーにはSNSを活用したキャンペーンを打った他、500人の女性を対象にブロックチェーンに関する講座を開いたこともある。

暗号資産向けの個人退職口座(IRA)を提供しているBitIRAは、暗号資産やブロックチェーンの分野における女性参加の割合をまとめている。これによれば、暗号資産投資家における女性の割合は多く見積もっても10%以下であり、より厳しい見積もりだと、5~7%になる。

これは業界にとって喫緊の課題となるだろう。ブロックチェーン関連のスタートアップには女性リーダーも多いが、しかし、これも全体の割合でいえばごくわずかだろう。同性のリーダーの存在は、心理的障壁を押し下げはするものの、それだけではまだ足りない。

「暗号資産は男性がもつもの」というモードが蔓延してしまえば、業界への女性参画はさらに難しくなるし、また、暗号資産のホルダーが男性に偏ること自体、市場による価格調整の機能不全につながる。あるいはブロックチェーンや暗号資産を活用した諸々のサービスも浸透しにくくなる恐れがある。

そもそも女性は依然として金融包摂しきれていないのではなかったのか。だからこそ、暗号資産がその特性をもって、女性や貧しい人びとを包摂しようということではなかったか。

同社のCOOであるLynn Hoang(リン・ホアン)氏はAIre VOICEのインタビューで「技術がどうこうというよりUXのデザイン自体に問題がある」と語っている。UXというデザイン的観点から女性に迫るというやり方は、金融の世界からはでてきにくい問題意識なのかもしれない。

金融包摂は、なにもLibraのような壮大なスケールでお届けされる物語によってのみなされるのではない。どれだけバックエンドで優れたシステムが働いていようとも、結局のところ、UXが悪ければ、我々はよりよいUXを求めて別のサービスを探すか、すべてを諦めてみなかったことにするのである。

おわりに

boxingのイメージ
最後に、社会的性差や性的マイノリティといった問題と対峙するあらゆるビジネスに潜む危うさを指摘しておきたい。

Hoang氏のいうようにUXの問題は確実に存在している。だが、根本的な問題は技術でもUXでもなく、おそらくもっと制度的な問題、そしてモードの問題、我々の心にしみついた差別的思考法といった「大いなるもの」にある。

名前は伏せるが、あるブロックチェーン企業は、レズビアンカップルの宣誓式において宣誓内容をブロックチェーンに刻む試みを実施した。現状、性的マイノリティの人びとは、パートナーシップ条例以外のあらゆる公証手段から疎外されている。だが、ブロックチェーンは公証手段としてこれ以上ないテクノロジーである。

その意味で、新しい社会包摂の手段となりうる優れた実証実験ではあるのだが、しかし、この会社の公式ページをみたとき、筆者は愕然とした。というのもあるページには、つぎのような文章が掲載されている。

なぜ社会には電気女子とIT女子が少ないのか……数学を苦手とする女性が大半であることが原因です……脳の作り的に女性は数学が得意ではないとされているので、そこは仕方ないのかもしれません……女性は男性より冒険心が少ないので、周りに事例がある職業に就きたがります……。

言説は、それがつねに差別的であるがゆえに、既存の差別と対抗的でなくてはならない。だからこそ、筆者は口が裂けてもこのようなことはいわない。とくに、筆者がいままさにこの記事を執筆しているように、みずからがわざわざ差別の歴史に首を突っ込んでいるのならなおさらである。

だが、ビジネスの世界ではプロダクトやサービス至上主義の感は依然として強く、やっている人間がどういう人間であれ、ビジネスとしては差別と戦うことが形式上できてしまう。その是非は、もはや倫理の領域であり、ここで述べるべきことではない。

だが、少なくともブロックチェーンという分野では、いままでマーケットが捕捉できなかった「価値」を、トークンエコノミーによって救済せんとする試みが数多く存在している。そのような世界では、トークンエコノミーを先導する組織や個人の発言が重みをもつ。

トークンエコノミーは、いわゆる「価値経済圏」だとか「価値資本主義」といわれる分野に属するが、それらは、いままで金銭的価値をもてなかったものに、金銭的価値を与えようというものである。では価値を与えるものとはなにか。それは言説や実践以外にはありえない。

だからこそ、トークンエコノミーでは言説や実践の内容が問われる。ブロックチェーンの領域でなにか新しい価値を生みだすとか「イノベーション」だとかいうならば、この点に細心の注意を払うべきである。この提言は倫理にかかわるものではない。単にビジネスとして致命傷を負いかねないということをいっているだけだ。なにも気負うことはない。ただみずからの言動に、つねに反省的であればいいだけのことである。

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