スクエニが関心を寄せるブロックチェーンゲームとは?アプリも分散型へ

島田 理貴

株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス(以下、スクエニ)は元日に、代表取締役・松田洋祐氏による「年頭所感」を掲示し、ゲームを含むエンタテインメント業界における2020年以降の見通しを述べた。

大手ゲーム機器メーカーが「PlayStation 5」や「Xbox Series X」などの次世代ゲームコンソールを発表しただけでなく、Googleの「Stadia」やMicrosoftの「Project xCloud」などのクラウドゲーミングサービスなども登場し、激動の時代を予感させた2019年のゲーム業界。

年頭所感のなかでは、日本国内のモバイルゲーム市場において、「成長率の鈍化」と、「タイトルの上位固定化」がみられたことや、5G時代の到来を前に「クラウドゲーミングへの対応」や「サブスクリプションモデルの採用」、「インドや南米といった成長地域」への期待などが言及された

当メディアとしては「ブロックチェーンゲーム」への言及を見逃すわけにはいかない。ブロックチェーンゲームについては以下のように述べられている

ブロックチェーンを活用したゲームも黎明期から脱し、徐々にその存在感を増しています。ブロックチェーン活用ゲームを投機の対象とせず、ユーザーのゲーム体験に新しい何かをもたらすことができるかが成長のカギであると考えています。

急成長をつづけるブロックチェーンゲーム=Dappsゲームの市場規模


ブロックチェーンゲーム(Dappsゲームともよばれる)の市場規模は既存のゲーム市場と比較すればさほど大きくはないものの、Dapp.comが公表している2019Q3のレポートによると、2019年9月末時点でのゲームタイトル数は660本に上る。アクティブなタイトルに絞っても、282本のDappsゲームが稼働しており、2019Q3の取引高は約600万ドルに達している。

遡って、2018年はとくにDapps市場全体が活況の年であった。Dapp.comによる別のレポートによると、年間の取引高は約67億ドルに達しており、iOSのモバイルアプリマーケットであるApp Storeの年間取引高(約42億ドル)を上回った。

2019年も成長はつづいており、DappReviewのレポートによると、Dapps市場における通年の取引高は230億ドルに達する。これは世界規模のモバイルアプリ市場にも迫る勢いである。ここにDappsゲームが占める割合はさほど高くないものの、もっとも巨大なエコシステムを有するEthereumの総アクティブユーザーにおけるカテゴリー別の内訳をみると、ゲームカテゴリーが46.5%を占める。このことからも、潜在的に可能性を秘めた市場だといえるだろう。

そもそもDappsゲームとはなにか


このように急成長期にあるDappsゲームであるが、「そもそもDappsって?」という読者にむけて簡単に説明しておこう。

Dappsとは自律分散型アプリケーション(Decentralized applications)の略で、ブロックチェーンを活用したサービスやゲームを提供するアプリの総称である。たとえば、一般的なソーシャルゲームには、中央管理者としての「運営」が存在するが、Dappsゲームにおいては、そのような管理者が存在せず、基本的には不特定多数のネットワーク参加者によって分散管理されている。また、ブロックチェーンの特性によって、ゲーム内資産のトークン化が可能となる。

これらの特性によるメリットの1つは、中央管理者としての運営の都合にユーザーが振り回されないことである。ソーシャルゲームをはじめとするオンラインゲームにおいては、突如サービスが終了したり、重要なルール変更がユーザーの同意なしに実施されることなどは日常茶飯事であるが、Dappsゲームにおいては、基本的にオペレーションが自動で実施されるため、このようなことは起きえない。

また、従来のゲームでは難しかったゲーム内資産(武器や土地といったアイテム)の実利的な売買が、ブロックチェーンを利用したトークン発行によって可能であることも、メリットの1つだろう。Dappsゲームにおいては、課金=投資であり、ゲーム内の資産を売買することでリアルなお金を稼ぐことも可能である。Dappsゲームのパイオニアである「Cryotokitties」においては、ゲーム内で育成したキャラクターが日本円にして1000万円を超える額で取引された例もある。

まとめれば、Dappsゲームとは、ユーザーが運営の都合に振り回されることなくプレイできる上に、ゲーム内の資産が、そのまま現実世界の金銭的価値をともなうという投機的側面ももったオンラインゲームである。

「課金ゲー」と称される、基本無料でゲームを提供し、課金を促すビジネスモデルが普及した現在のソーシャルゲーム市場において、ユーザーは決して「資産」とはよべないようなものにお金をつぎ込んでいる。この現状に警鐘を鳴らすものは多いし、ユーザー側にもソーシャルゲームである限り拭えない虚脱感から抜けだしたいというニーズがある。ゆえに、ゲームというきわめて多角的な要素を含んだエンタテインメントに注いだ熱量を確固たる「価値」として保持したい欲求を救うべく、Dappsゲーム業界はスケールをめざしている。

Dapps市場で存在感を強める国内市場、Dappsゲームに着目するスクエニ、その狙いは?


「洋ゲー」とよばれる海外製のゲームタイトルとの競争に苦戦するゲーム業界ではあるが、じつは、Dappsゲーム市場においては日本が先行している部分もある。日本発のDappsゲームである「My Crypto Heros」は、2019年8月21日時点のユーザー数、トランザクション量において、世界一を誇っていた(公式サイト記載)。DappRaderのデータによると、2020年1月14日時点でも、同タイトルのユーザ数は世界第3位となっている。他にも、「CryptoSpells」や「Contract Servant」などの国内発Dappsゲームも人気を集めている。

とはいえ、どのDappsゲームも開発元はあまり聞き慣れない会社ばかりであり、大手参入は進んでいない様子である。このような状況にあって、ゲーム業界大手のスクエニはなにを狙うのだろうか。

1つには、飽和状態のソーシャルゲーム市場からの脱却があるだろう。2011年以降、「iPhone 4S」を筆頭としたスマホの高性能化と爆発的な普及を背景に、急成長したソーシャルゲーム市場であるが、熾烈な競争をつづけた結果、近年では開発費の高騰や上位タイトルの固定化、ゲーム内容の金太郎飴化といった状況を招き、大手に限らず各ゲームメーカーが疲弊しつつある。ソーシャルゲーム市場で生き残りを賭けるメーカーの眼に、Dappsゲーム市場は新天地として魅力的に映っても不思議ではない。

また、参入を促した別の理由としては、Ethereumの大型アップデートによるトランザクション処理能力の向上が挙げられる。StarkWareはGASコストの削減を含む直近の「イスタンブール」アップデートをうけて、スケーラビリティの向上効果を測定したレポートを公開している。同レポートによれば、「イスタンブール」アップデート後のEthereumにおけるスケーラビリティは、アップデート前と比較して、2000倍に向上するだけのポテンシャルを有しているという。

Ethereumの大型アップデートが完了するのは2021年頃の見込みであり、不透明な部分は多いが、Ethereum以外にもEOS.ioやTRONなど、Dappsエコシステムをめざすブロックチェーンプロジェクトの多くが、優先課題としてスケーラビリティの向上にとりくんでいるため、業界大手が満足できるだけのネットワーク性能の実現もそう遠くないことだろう。

さらにもう1つ。スクエニは「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」といった有名タイトルから、「ガンガン」や「Gファンタジー」、「マンガUP」などのマンガブランドを有している。もとより、Dappsゲームはその投機的な側面からIPコンテンツとの相性がよいため、スクエニの豊富なIPコンテンツはDappsゲーム市場の火付け役となりうる。

Dappsゲーム市場のゲームチェンジャーとしてのスクエニ


ゲームは本来、世界中の広い世代に愛されるエンタメである。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などはその最たる例といえる。しかしながら、近年のゲーム市場ではマニア向けのゲームと、よりマス向けのゲームへの二極化が進行し、その溝は拡大の一途をたどっている。

他方、Dappsゲーム市場に目を向けると、それを支えているのは熱心なコアユーザーである。Dappsあるいはブロックチェーンという、小難しい技術を利用しているがゆえに、その意義も伝わりにくい。Dappsゲーム市場がこのままスタートアップ先導で拡大していけば、おそらく二極化の解決は絶望的である。

しかし、スクエニのグローバルかつ広範な世代に愛されるIPコンテンツがDappsゲーム市場に流入すれば、それをきっかけに、ゲーム市場に横たわる溝も徐々に埋まっていくかもしれない。また、ブロックチェーンという技術の普及にも一役買うだろう。

巨大プラットフォームのステルス参入という選択肢


この溝を埋めるもう1つの方策がある。この方策は、韓国の大手プラットフォーマーであるKakaoの系列企業が手がけるDappsプラットフォーム「Klaytn」の事例に詳しい。Klaytnはがローンチしたのは2019年の6月であるが、State of Dappsに掲載されたデイリーレポートによれば、すでにEthereumの2倍以上のアクティブユーザーを獲得している。しかも、Klaytnの擁するDappsは50にも満たない。Ethereumが2700近くのDappsを擁していることをかんがえると、この成長は驚異的である。

この成長の要因は、同社が提供する「Kakao Talk」というメッセージインフラを中心としたエコシステムに、Klaytnをくみこんだことである。こうイメージするとわかりやすい。日本のLINEが「LINE ゲーム」と称し、Dappsゲームをユーザーに提供する。どうやらそこで得たアイテムは売買できるらしい。売買して得た「LINE マネー」は、「LINE Pay」を介して街でつかえるという。反対に、街の買い物で得た「LINE ポイント」は、ゲーム内のアイテムを購入するのにもつかえるらしい。しかも、LINE側からの宣伝文句に「ブロックチェーン」という胡散臭い用語は一度もでてこない……。

ゲームユーザーにとって重要なのはブロックチェーンをつかっているかどうかではなく、そのゲームが面白いか面白くないか、これだけである。この点に着目したからこそ、Klaytnは急成長を実現したといえるだろう。

スクエニが今後どのようにDappsゲーム事業を展開していくかはわからないが、ユーザーを置いてけぼりにしないやり方でDappsゲームを普及させつつ、IPコンテンツによって幅広い世代をとりこむことで、ユーザーの二極化を緩和させることが今後のゲーム市場の持続可能性を高めていくだろう。

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