分散型SNSはフェイクニュースや怒りをまき散らすのか:twitterがチーム発足

島田 理貴

twitterイメージ

Twitterが分散型SNS開発チーム発足

12月11日(現地時間)、TwitterおよびSquareのCEOであるJack Dorsey氏は「ソーシャルメディアのためのオープンかつ分散型の標準を開発するために、最大5人のオープンソースアーキテクト、エンジニア及びデザイナーで編成される小規模の独立チーム」を支援していると発表した。

加えて、プロジェクトの最終目標はTwitterがこの標準のクライアントになることにおかれ、また、この分散型SNS標準にはブロックチェーン技術が活用されるという。なお、11月の段階で既にプロジェクトの公式Twitterアカウントである@blueskyが開設されている。

怒りやフェイクニュースの拡散


bluesky発足には、中央集権的な問題解決の難しさが顕著になってきていることが背景にある。Dorsey氏は「誹謗中傷や、誤解を招く情報に対処するためのグローバルポリシーの一元的な実施」が長期的に拡大することの難しさに言及した。

「誤解を招く情報」には恐らくフェイクニュースも含まれる。フェイクニュースは、2017年に流行語大賞にも選ばれ、2019年の年末になっても未だその猛威を緩める気配はない。ファクトチェックをテーマにした著書の『Factfulness』(邦題:ファクトフルネス)は、38ヶ国語に翻訳され、国内でも累積発行部数が50万部を突破し、2019年間ベストセラーの単行本ビジネス部門では第2位を獲得した(日販調べ)。多くの人が、今もなおフェイクニュースに多大な関心を抱いている。

2019年前後から、ようやく大手のインターネット企業もフェイクニュース対策機能を導入しはじめており、12月16日にはInstagramがサードパーティ製のファクトチェッカーを導入したことが発表された。2020年にはアメリカ大統領選挙も控えており、各インターネットサービス企業はフェイクニュース対策を急いでいる。

健全なアルゴリズムのために

サイバーイメージ
しかし、なぜ中央集権的なSNSの運営が、フェイクニュースの対処に苦労しているのだろうか。この疑問を解くキーワードは「アルゴリズム」である。

Dorsey氏は「既存のソーシャルメディアのインセンティブは、しばしば、論争と怒りを引き起こすコンテンツと会話に焦点を当てる」と述べている。この事態の要因の一つにはSNSやWEB広告、検索エンジンなどが導入しているアルゴリズムがある。

アルゴリズムは、ユーザーの興味関心に最適化したコンテンツを提供するためにしばしば活用されている。しかしながら、それは、往々にして人間の思考プロセスとはかけ離れているにも関わらず、不幸なことに散漫な欲望を掻き立ててしまう選択肢ばかりを提示してしまう。しかも、多くの場合に、アルゴリズムの仕組みはユーザーの眼からはブラックボックス化されている——場合によっては開発者の意図をも超えてしまう。

だからこそ、Dorsey氏は「オープン」にこだわる。Dorsey氏は、この標準開発計画がTwitterに適しているとする理由として、「公開された会話の大規模なコーパス」へのアクセスが可能になり、「健全な会話を促進する……アルゴリズムの構築に集中」できるようになることを挙げている。

分散型であることが何を解決するのか


なるほど、Dorsey氏の熱入りの発言からも、オープンソースであることの重要性はよくわかる。だが、なぜ「分散型」で、なぜ「ブロックチェーン」がそれを可能にするのかがDorsey氏の発言からは不明瞭である。

実はbluesky以外にも様々な分散型SNSサービスや、その開発プロジェクトが存在している。例えば、2017年に一時的なブームを巻き起こしたMastodonも、blueskyと同じくオープンソースで開発される分散型SNSの1つである^1。また、Mastodon以前から、Facebookの代替を目指したdiasporaという、Mastodonと同じくオープンソースで開発される分散型SNSが存在している。diasporaは、TwitterやYoutubeから排除された「イスラム国(ISIS)」が広報手段として活用したことで話題となった。

しかし、これらは、フェイクニュースという社会現象とは全く違う文脈から生まれたSNSであり、ブロックチェーン技術が活用されているわけでもなく、blueskyの目指すものとは全く別のものだと考えたほうがいいだろう^2

どうやら、blueskyのようなフェイクニュース時代の分散型SNSがどのような目論見でブロックチェーンを活用し、どのようなインパクトをもたらすことを目指しているのかを知るためには、まず、フェイクニュースがいかなるメカニズムで発生しているかを理解する必要がありそうだ。

フェイクニュースとは何か


だが、歯がゆいことに、フェイクニュースという語自体がバズワードであり、それが指し示す現象は非常に多岐にわたる。笹原和俊氏の著書『フェイクニュースを科学する:拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』では、フェイクニュースという言葉の定義づけが如何に難しく、そして、いくつかの定義づけの試みが如何に、フェイクニュースの複雑性を捉え損ねているかを指摘している。また、笹原氏はフェイクニュースという問題を考えるにあたっての心がけを説いている。

ニュースの内容や伝達の問題としてだけではなく、情報の生産者と消費者がデジタルテクノロジーによってさまざまな利害関係の中で複雑につながりあったネットワークの問題として捉えるべき……。(p.15)

これを踏まえて、笹原氏は、著書のなかでフェイクニュースを「情報生態系」として捉える視座をもつことの重要性を繰り返し強調する。この情報生態系に参加する「生き物」には、アルゴリズム、Botといった純粋な情報としてのプレイヤーから、人間心理、政治・経済の環境といった極めて不安定な人間的存在までもが含まれる。したがって、この世界は、何か1つを変えたときに、全体がどう変わるかが全く予測のつかない手探りのものとなる。
前掲書ではこうした多種多様な「生き物」が絡む複雑な世界が様々な研究成果をもとに論られているわけだが、そこから見えてくる現代のフェイクニュースの最たる特徴は、虚偽情報の拡散がネットワーキングによって加速するということである。しかも、この拡散によって、ネットワークの分断が生じることもままあるのだ。だからこそ、ネットワークの、特にインターネットの仕組みに手を加えることが、フェイクニュース対策には有効だと考えられるのである。実際、フェイクニュースの生態系において、如何にインターネットの仕組みが作用しているかを、多くの研究が明らかにしている。

なるほど、大げさにいえば、次なるインターネットが必要なのである。ところで、次世代のインターネットという文脈で使用される「Web3.0」というバズワードもあるが、大抵この言葉が使われるとき、一緒にブロックチェーンの革新性が強調される。ある意味で、フェイクニュースに対抗しようとする分散型SNSの試みは、このWeb3.0の文脈に位置づけることができるのかもしれない。さすれば、次なるインターネットとしての分散型SNSにブロックチェーンが用いられることも全く不思議ではない。そして、既にそれは実用化されはじめている。

ブロックチェーンはSNSに何をもたらすのか


暗号資産EOSの開発企業であるBlock.oneが開発するSNSのVoiceは、ブロックチェーンを活用している。どのように活用されるのか。1つには、存在しない人物のアカウント登録を防ぐことに用いられる。ブロックチェーンの活用事例に、公証サービスや顧客確認サービス(KYC)があるが、Voiceの機能もこれに近いだろう。

また、Voiceは独自トークンである「Voiceトークン」を利用して、より「共感」を集めた投稿が、より金銭的な価値をもって、より拡散されるようなエコノミー設計を目指している。だが、ここで留意しなければならないのは、Twitterでフェイクニュースが拡散されるとき、これもまた「共感」によって拡散されているということである。人々の共感がいつも正しいものに共感するとは限らない。だからこそ、ファクトチェックや、悪意に満ちた誹謗中傷を排除する仕組みがなければならないのである。この点について、運営側は「節度は以前として懸念事項である」と述べている。

SteemALISといったSNSも、ブロックチェーンを活用した分散型SNSとして名が知れているが、いずれも理念、仕組み、ユーザーの傾向に多少の違いはあれど、基本的には同様のサービスと考えて差支えない^3。どのサービスも、ブロックチェーンを活用したトークンエコノミーによって、ユーザーの「価値判断」に基づいたSNSの活性化を図っている。したがって、Voiceの懸念はこれらのサービスにも存在する。

だが、概してこれらのサービスは、ブロックチェーンを活用することで、既存のSNSに蔓延るペルソナや張りぼてを剥ぎ取り、アカウントや投稿などに「血」を通わせることを目指しているといえる。トークンや暗号資産という明確に金銭的な価値を帯びたアカウントや投稿が可視化されたとき、我々はそれらの情報に「人」を強く感じるはずだ。「お金」に「血」とか「人」を結びつけることに、違和感を覚える人もいるかもしれないが、お金とは、人の価値観の最もわかりやすい反映である。そして、この仕組みが、フェイクニュース拡散のストッパーとして機能することは十分にありうるだろう。

共感に基づかない信頼


違うアプローチでブロックチェーンを活用するSNSもある。国内企業が開発中のTrue Newsというニュース/SNSアプリは、前述した分散型SNSと同じく、トークンエコノミーを導入したサービスである。このサービスが前述のサービスと違うのは、ファクトチェック自体がトークンエコノミーを支えていることにある。True Newsにおいては、ニュースの投稿もニュースのファクトチェックも全てユーザーがおこなう。ユーザー同士で、お互いの信頼性や正確さを評価しあい、その評価によってトークンを通じた報酬が決定されるのである。

共感と信頼はある部分で共通するが、しかし、基本的には全く別の原理といっていいだろう。信頼性のないニュースが共感を媒介に拡散することは多々あるが、信頼性のないニュースが信頼性を評価しようとする人たちの間に拡散することなどあり得ない。その意味で、True Newsは非常にユニークであるし、フェイクニュース対策に有効な可能性を秘めているといえる。

だが、結局のところTrue Newsもユーザーの節度に依存しており、前述のSNSと同じく「血」を通わせることが限度であるようにもみえる。また、ホワイトペーパーを読む限り、まだ道半ばという感は拭えない。

既に存在する分散型SNSの多くは、フェイクニュースも視野に入れて開発されているとはいえど、結局のところ、それだけでフェイクニュースの拡散を防げるということは絶対にないのである。もう一度思い起こそう。フェイクニュースは「情報生態系」である。

みんなが使っているから使うのではない


SNSというツールが当たり前になって、まだそれほど長い時間が経ったわけではない。まだ我々はSNSが引き起こす諸問題に対して、真っ向から対決できるほど、有効な知識ベースを持ちあわせていない。だからといって、フェイクニュースや悪質な投稿が蔓延る現状をおちおち見過ごすわけにもいかないだろう。

各SNSが三者三様のやり方で問題に取り組むなか、来るSNSのあり方を我々も考えておかなくてはならない。ぼんやりとしてるうちに、フェイクニュースの牢獄に閉じ込められ、何が正しくて、何が間違っているのかを自分で判断できなくなってしまう。既にSNS上にそのような状態に陥った人が散見されるのは、本当に不幸なことである。

我々は情報を自由に選択できるように、自由にSNSを選ぶことができるはずである。皆がInstagramを使っているから自分も使うという態度では、フェイクニュースに対して全く無防備になってしまう。その態度は、ある意味でネットワーキング効果への心酔ともいえるが、フェイクニュースを拡散させるのもまたネットワーキング効果なのである。

SNSの世界の技術革新はこれから一層の盛り上がりをみせていくだろう。そのなかで我々が何をSNSに求め、その希求にどのような仕組み、技術が応えてくれるのかを慎重に見定めていく必要があるだろう。

脚注

1:Mastodonの話題性の文脈は、blueskyのようにフェイクニュースや偏向をもたらすアルゴリズムへの対策という文脈とは違うだろう。ブームも冷めた今、国内におけるその文脈を見つめなおせば、コミュニティを基調とするmixiやGreeなどから、よりパブリックなTwitterなどにユーザーが移動していくなかで、その中間としての「連邦型SNS」であるMastodonが目新しいものとして、一部のユーザーに受け入れられたというのが妥当な文脈ではないだろうか。 戻る

2:ブロックチェーンの利点の1つに冗長化がある。Mastodonも、分散型サーバーという意味では、中央集権的な運営体制のTwitterよりは冗長なネットワークを形成しており、ブロックチェーンの文脈と重なる部分があることには留意したい。また、開発者側の理念や方針とは関係なく、Mastodonやdiasporaの特質を利用して、独自インスタンス内で、ブロックチェーン技術を活用した、フェイクニュースに対抗する実証実験を進めるプロジェクトもある。 戻る

3:SteemとALISの違いをわかりやすく説明している記事はこちら戻る

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