ビットコインは2020年どうなるのか:半減期で価格は上がる?

島田 理貴

新年あけましておめでとうございます。

年の瀬には、暗号資産の動向を総まとめしたが、今回は令和2年=2020年にBitcoinがどのような値動きをみせるのか、なにが価格を動かしていくかを考察していく。

半減期、Bitcoinの価格は上がるのか、下がるのか


(出典:CoinMetrics:”Revisiting the Block Reward Halving Theory”)

まず、もっとも大きく価格に作用しそうなイベントは「半減期」である。なぜなら、過去2度の半減期で、Bitcoinの価格は上昇いているからである。多くの経験論のみたてはこうだ。「半減期によって、マイナーの報酬が減れば、マイナー側からの売り圧力が減少し、価格上昇への条件は緩和される」と。

だが、今回も上昇するとは限らない。目下、多くの論者が半減期をめぐってさまざまな主張を展開している。争議を整理すると、半減期懐疑派は、半減期の時期も貨幣の供給量もすべて市場は折りこみ済みだという「効率的市場仮説(EMH)」にもとづいて価格は動かないという。

他方、半減期肯定派は、市場参加者間に情報格差があるから価格は動くはずだし、かつての半減期の経験がそれを証明しているという。なお、上のチャートを提供したCoinMetricsのレポートでは、このような議論が醸成する「物語」がゲーム理論的な作用をもたらすことで価格の変動を実現する可能性は十分にあるという、いくらかメタな視点を提示している。

Litecoinは過去の半減期で下落も


(出典:CoinMetrics:”Revisiting the Block Reward Halving Theory”)

半減期制度を導入している暗号資産は数多く存在するが、そのどれもが半減期のたびに価格上昇しているわけではない。たとえば、Litecoinは2019年8月に半減期を迎えたが、期待に反して価格は下落に転じた。

CoinMetricsはこれについて、市場参加者のあいだで「物語」が先行してしまい、半減期以前に価格が天井まで上昇した結果、半減期をむかえたところでの上がり幅が残されていなかったのではないかと推測してる。くわえて、半減期以降、Litecoinのマイニングの難易度が急落していることから、マイナーが大量に撤退していることがわかるという。

マイナーが撤退してからLitecoinの下落がつづいているところをみると、物語によって局所的なイレギュラーがあったものの、やはりマイナーの動向が価格の鍵を握っているといえそうだ。株式市場同様、期待先行の動きには注意しつつも、マイナーのマクロな動向をファンダメンタルズとしてみるのが当面の指針として妥当ではないだろうか。

Bitcoin「5万5000ドル」という予測も


ところで、経験論といっても、Bitcoinに関してはたったの2度しか半減期を経験していないため、それほど盤石な論拠とはならない。Litecoinの例にしたっておなじことだ。もう少し、頼りになる予測材料はないのだろうか。

ある論者は需要供給のファンダメンタル分析をもちいて、次の半減期までにBitcoinが8000ドル以上の価格を維持するためには、Bitcoin市場に28億8000万ドルの資金が流入しなければならないと結論づけた。

またある論者は、ストック・フロー比率をもちいて導かれた予測モデルをもとに、2019年内には1万ドルまで回復するかもしれないし、次の半減期以降のBitcoin価格は約5万5000ドルに達すると予測した。

だが、どちらの分析にも批判の余地がある。前者には、マイナーが半減期前に保有するすべてのBitcoinを市場に放出するという前提があるし、後者については、計量経済学にあかるい金融アナリストのMarcel Burger氏が、モデルに使用されたデータセットの誤りを指摘している。また、ストック・フローは需要による影響を加味しない。

むろん、両者とも、決して滅茶苦茶なことをいっているわけではない。手続きに則った上での主張だ。むしろ、我々が着目すべきなのは、物語の無茶苦茶さだ。

多くの人が半減期が技術的にどのような結果をもたらすかを知っている。それは明白な「事実」だからだ。しかし、同時に人々はその事実を「解釈」する。市場参加者は各々の解釈に則って行動する。そして「物語」が生まれる。この「物語」は、我々がみずからの人生の先ゆきを1つとして正確には予想できないように、きわめて気まぐれに進行する。

半減期によるデリバティブ市場への影響


目下、物語の主人公はマイナーだ。2019年内にあげられた2020年を予想する多くのメディア記事が半減期におけるマイナーの動向をとりあげている。

だが、それと同時に、物語に参加する「ライター」の多くは、暗号資産デリバティブ市場を警戒している。というのも、近年、急速にデリバティブ市場は成長しており、多くの機関投資家たちが原資産ではなく、デリバティブ市場における取引を望んでいるという背景があるのだ。

もし、Bitcoinの価格を生産者、すなわちマイナーが決定しているならば、半減期に価格が上昇する確率は非常に高いだろう。しかし、デリバティブ市場が大きくなると、マイナーは価格の決定権を失ってしまう。5月までにどの程度、デリバティブ市場が拡大していくかはいまだ不透明だが、マイナーの決定権を凌ぐほどに成長していた場合、価格の決定権の所在をつかむことは困難をきわめる。

米CFTCによる規制のもとでBitcoinのデリバティブを提供するLedgerXは、半減期を利用した新たなオプション取引を提供すると発表している。暗号資産取引所を運営するBitfinexも、Tether(USDT)建ての先物およびスワップ取引を2020年Q1にも提供開始予定としている。その他、BakktやCMEなども市場参入しており、今後、暗号資産のデリバティブ市場が成長していくことはほぼ確実といえるだろう。

この状況下にあって、物語がどのような方向へ進展していくかはきわめて不透明である。デリバティブ市場自体の歴史が浅く、その分析手法や情報提供も未熟である。ゆえに、物語はより力を増す。物語は、情報格差の産物であるからだ。右も左もわからないデリバティブ市場にあって、市場参加者は各々に自由な解釈をしてみせ、物語をより長大にする。デリバティブ市場は、主人公のマイナーを脅かすライバルとして猛威を振るうかもしれない。

二大巨頭の影:米中の動き


半減期に限らず、2020年のBitcoinはマイナーを主人公とした物語主導で値動しつつも、デリバティブ市場の台頭が物語の雲ゆきを怪しくしている。だが、それだけではない。過去のBitcoinの値動きをみる限り、物語の書き手たちは米国と中国という2大巨頭の動向にも敏感なようだ。

米国と中国をめぐるいくつかのニュースは、Bitcoinの価格が下落したタイミングと重なっている。2017年9月、中国政府による国内ICOの禁止。2018年11月、米国による暗号資産への規制強化。2019年10月、米Googleによる量子超越性の実証。2019年11月、中国による暗号資産への規制再強化。これらすべてがBitcoin価格の下落と同タイミングであった。

2020年に控える重大ニュースは、11月3日の米大統領選挙と、時期は未定ではあるが、中国によるDC/EP(デジタル人民元)の発行の2つだろう。

米大統領選挙は日付こそ決まっているため予測もしやすそうではある。しかし、決選投票以前においても、選挙レースの過程で候補者の発言がとり沙汰され、価格に影響をおよぼす可能性がある。

DC/EPについては、いまだその全貌はみえていない。だが、おそらく米ドル覇権への対抗という意味あいが強く、Bitcoinとの関係性は弱いと予想される。しかし、中国政府がDC/EPの発行を機に、Bitcoinを中国国内から締めだすというシナリオも十分にありうるため、警戒が必要だろう。物語の主人公がマイナーだとするならば、中国からBitcoinが締めだされた場合のインパクトははかり知れない。

他にも2020年のイベントはてんこ盛り


最後に、物語の中心になりうるかはわからないが、その他、Bitcoinの値動きに作用するかもしれないトピックをいくつかとりあげよう。

第1に、暗号資産送金へのトラベル・ルールの適用があげられる。トラベル・ルールは、FATF(金融活動作業部会)によるマネーロンダリング防止規制の1つだが、米国政府は2019年11月、暗号資産関連事業者に対し、トラベル・ルールに準じて、顧客情報を米国政府へと共有することを義務づけるなど、規制の厳格化を発表した。

FATFの勧告は事実上絶対的な効力をもつため、世界中の暗号資産関連事業者がトラベル・ルールへの対応を急がなくてはならない。対応方法によっては、暗号資産の「プライバシー保護」における利点が損なわれる可能性もあり、暗号資産フリークたちの失望をよびかねない。とはいえ、現時点の各種メディアをみる限り、トラベル・ルールへの反応は薄く、少なくとも物語に作用する可能性は低そうだ。

第2に、Bitcoinを含むETFの米国市場への上場が2020年に承認される可能性がある。2019年にはいってから、暗号資産インデックスファンドの米Bitwiseは、再三にわたり、米SECに対してBitcoin ETFの上場を申請してきた。

2019年内に承認がおりることはなかったものの、Bitwiseは依然として前向きな姿勢をみせており、2020年の上場達成が期待されている。仮に、Bitcoin ETFが承認された場合には、市場参入ハードルの低下とともに、市場へ大量のマネーが流入することが予想される。

2020年も2019年同様にイベントてんこ盛りである。どのトピックに着目し、いかに解釈するかが物語をつくっていく。市場をリードするのが物語だというと、不安で仕方がないが、だからこそ、さまざまな情報を疑う余地があり、知識や技術が生まれる余地があるというものだ。2020年もBitcoinならびに暗号資産に多大なる期待を寄せながら、動向を注視していきたい。

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