ブロックチェーンの農業への応用

編集部

人々の注目を投機的な側面で集めた仮想通貨業界は、現在その背後のブロックチェーンのという技術の実利用に目が向けられている。その中でブロックチェーンと相性の良いサプライチェーン管理というアプローチで、今まで情報技術の活用が遅れていた農業分野にブロックチェーン技術の導入が進んでいる。

ブロックチェーンの性質には、誰もが閲覧できる透明性と、一度書き込んだものを改ざんできない完全性があることがよく言われている。仮想通貨の草分けとなったビットコインは、誰もがその取引履歴を閲覧でき、政府の干渉なしにネット上を流動する通貨として、今や世界中にその名が知れ渡った。ビットコインが分散的と言われるのは、従来的な通貨のように政府に信用が担保されているのではなく、ブロックチェーンのアルゴリズム自身が信用の源になっているからだ。

サプライチェーンと相性が良いブロックチェーン

一方、食料供給の問題として、食料が世界的に行き来する現代では、生産者と消費者の間に幾つもの仲介業者を通すことが多くなり、これが供給プロセスの複雑化を招いている。この複雑なプロセスが原因となって、流通の不確実性が高まるだけでなく、生産現場での実態に目が届きにくいという問題が生じる。

また一般消費者レベルでも、農薬などの食の安全性や開発途上国とのフェアトレードといった生産方法への意識が高まっている。最近では信頼できるはずの大手小売業者の産地偽装が問題にもなり、サプライチェーンの透明化は喫緊の課題とも言える。

食品のサプライチェーンには、公開されているデータの情報が正しいという根拠が不可欠であり、改ざんが出来ないブロックチェーンはこの点でサプライチェーンと非常に相性が良い。そのため、サプライチェーンをブロックチェーン上で管理しようとする動きは既に世界的に見られる。

農業分野でのブロックチェーン導入事例

マグロをブロックチェーンで管理~漁業での取り組み

海洋を通じて共有される水産資源は、乱獲などによる生態系の影響を受けやすく、漁獲高は国際的なルールで規制されている。しかしながら、違法な漁業は世界規模で行われ、その規模は年間100億~230億米ドルと推定されている

違法な漁業は世界の水産資源の生態系を乱すことだけでなく、違法な漁を行うその現場では労働力として人身売買が行われることも国際的な問題として挙げられる。

これらの問題に対し、2018年に国際NGO組織の世界自然保護基金(WWF)は、Blockchain Supply Chain Traceability Projectを立ち上げ、マグロのサプライチェーンをブロックチェーン上で管理するプロジェクトをオセアニア諸国で開始している

このプロジェクトは、捕獲したマグロにRFIDなどのICタグを装着し、個体のIDをブロックチェーンに記録することで、マグロが合法的な経路で供給されていることを認証するシステムとなっている。このプロジェクトには、飲食店で提供されるマグロのサプライチェーンを確認することで、消費者側からも違法漁業への意識を変えてもらう狙いがある。

こうした国際的な問題をブロックチェーン技術で解決しようとする試みは木材市場でも行われている。

ブロックチェーンで森林保護~林業での取り組み

森林生態系や気候変動への影響から、持続可能性を損ねる森林の過剰伐採は世界的な問題として数十年間掲げられてきたものの、違法伐採は収まる気配を見せない。

インターポールによると、木材の国際貿易の15~30%が違法木材であり、年間500億~1500億米ドルが市場で取引されていると推定されている。さらに、主要な熱帯雨林の木材は50~90%が違法伐採によるものと見られ、これらは森林保護の政府職員の汚職が深く関与しているとされる。

これらの問題に対しては、森林保護という目的で多くの活動が実施されてきたが、ブロックチェーンを活用した新たなプロジェクトが世界中で立ち上がっている。

スペインの農業食料環境省が設立したChainWoodは、ブロックチェーンを用いた林業のサプライチェーンの構築を目的としており、EUのEAFRD(欧州農村振興農業基金)の助成を受けてプロジェクトが進行している。ChainWoodはスペイン6都市の業界メンバーによって構成されており、最初にポプラ、クリノキ、オークの木材に対してサプライチェーンの追跡が実施される予定だ。

また、インドネシアのCarbon Conservationは亜熱帯林の伐採地域で多発する土地の開墾が目的と見られる火災を減らすことを目的としており、火災発生率を下げればパーム油農園に報酬を与える仕組みをブロックチェーン上で管理する実証実験を行っている

より日常的な物に対してもブロックチェーンのプロジェクトは動いている。それはコーヒーのフェアトレードだ。

フェアトレードにもブロックチェーン~コーヒーへの応用

1日2ドル未満で暮らす人も多いとされるコーヒー生産国では、コーヒー豆の売上の多くが仲介業者に中抜きされ、労働者はタダ同然の賃金で働かされているという貧困の問題がある。こうした富める者がますます利益を得て、貧しい者がますます生活が苦しくなる経済格差の構図は南北問題として知られる。

フェアトレードは欧州を中心に1960年代に始まり、1990年代に急速に広まった運動であり、開発途上国で作られた製品を対価に見合った適正価格で取引することで、生産者の地位と生活の向上を目指したものである。

コーヒーのフェアトレードを促進することを目的としたFairtrade Internationalや持続的なコーヒー業界を目指すSustainable Coffee Challengeなどのプロジェクトには非常に多数の企業が参加し、現在日本でも多くのフェアトレードのコーヒーが販売されている。

フェアトレードにブロックチェーンを利用する試みとして、スターバックスは「Bean to Cup」というプロジェクトを立ち上げている。このプロジェクトは、コスタリカ・コロンビア・ルワンダの2500万人の小規模農家と連携したパイロットプログラムとなっている。ブロックチェーンを利用した透明性のあるサプライチェーンを構築するとともに、生産方法の支援を行い、持続的な農業により生産性を3倍に増やすことを目標としている。

これからの農業とブロックチェーン

ブロックチェーンのプロジェクトではサプライチェーンが大きく広告されているが、ブロックチェーンを使ったサプライチェーンには一つ大きな落とし穴がある。

ブロックチェーンは情報の改ざんが出来ないという性質があるものの、これは書き込まれた情報が正しいことを意味してはいない。そもそもの情報が正しくない可能性があるからだ。

初めに情報を入力する際に、間違いや違反が起きる可能性を出来る限り排除しなければいけない。最初に取り上げたプロジェクトでは、今後、人の手を介する情報の入力を減らし、機器による情報の自動化を課題としているほどだ。

ビットコインは全てがデジタルデータで完結するため、ブロックチェーンの完全性は保たれる。しかし、ブロックチェーンを物理的な現実世界に応用する際には、実物をデータに変換しなければいけない過程が信頼性のネックとなる。

このようにブロックチェーン技術を利用する際には、注意しておかなければならない点があるものの、社会問題のソリューションとしての推進力は大きい。ここ数年で情報産業が農業に大きく進出してきた印象があり、AIの導入が人手不足に悩む農業の解決策として最近報じられる。サプライチェーンに限らず農業のエコシステムを改善していくプロジェクトが今後も登場することを期待する。