国内交換業ビジネスは業界横断の時代へ―新・旧暗号資産交換業者の今

松嶋真倫

ビットコインをはじめ暗号資産の投機熱に沸いた2017年。この時に国内暗号資産業界を牽引したのはbitFlyer、Coincheck、bitbank、Zaifの四大交換業者であった。しかし、2018年1月に起きたCoincheckハッキング事件、同年9月に起きたZaifハッキング事件を契機に金融庁によるテコ入れが入ると、業界には強い向かい風が吹き荒れ、その構図は瞬く間に変化した。別世界の巨人たちがこの小さな世界に次々と入り込んできたのである。2019年に入り業界の再編が一巡した今、新旧交換業者たちの次なる取り組みに目を向け、今後の業界動向を考察する。

HD化により組織体制を一新したbitFlyer、新会社bitFlyer Blockchainを設立

国内交換業者として初めて日欧米への進出を果たしたbitFlyerは、金融庁への対応の一環で2018年10月にホールディングス化を行い、組織体制を一新した。以降、金融業界を中心に経験に富んだ人材を採用し、経営態勢の見直しを進めてきた同取引所は、今年5月24日にブロックチェーンの新事業を手掛ける子会社㈱bitFlyer Blockchainの新設を発表した。同社役員には創業メンバーである加納雄三氏や小宮山峰史氏、金光碧氏が名を連ねている。

ハッキング事件を経て晴れて金融庁の登録認可を取得したCoincheck、本格再始動へ

ハッキング被害に遭って以降サービス再開に向けて動いてきたCoincheckは、今年1月11日に晴れて金融庁の交換業登録認可を取得した。4月には買収により親会社となったマネックスグループの一角として新たな経営体制が発表され、マネックス証券とのポイント連携など、本格再始動に向けてグループ間で連携を強める動きが見られる。また、大口OTCサービスの開始やCoincheckでんきの対象エリア拡大など社内サービスの拡充も進んでいる。

規制動向に柔軟に対応しセキュリティ強化を進めるbitbank、次なる動きは?

bitbankは、金融庁による業務改善命令を受けながらも迅速に対応し、これまで着々とサービスの拡充を進めてきた。2018年11月に取扱い通貨に関する情報サイトbitbank Infoを立ち上げ、同年12月にはHPをリニューアルした。また、従前よりセキュリティ評価の高かった同取引所は、今年5月24日にiOSアプリだけでなくAndroidアプリにおいても生体認証による画面ロック機能を実装し、その印象を強めた。

新しくZaifの運営元となったフィスコ、取引所の年内統合へ

ハッキング事件があってすぐにZaifの事業買収に動いたフィスコは、今年4月22日にようやくその承継業務を完了した。これを受けて同社はもとより運営していたフィスコ仮想通貨取引所(FCCE)と買収したZaifとのシステム統合を年内に行う予定であると2019年第一四半期報告資料で発表した。一方、Zaif運営元であったテックビューロは、8月に暗号資産交換業を廃止すると発表し、独自のICOプラットフォームCOMSAの開発に舵を切っている。

元より大企業株主が多く組織再編および人員増強を行ったbitFlyer、業界が一時的に傾くちょうど半年前に大企業から資金調達していたbitbank、そしてハッキン事件後に被買収という形で大企業資本を取り込んだCoincheckとZaif。かつての国内四大交換業者は、規制対応の流れの中で、いずれも巨大資本に支えられる体制へと移行した。国内ベンチャー企業としてスタートした彼らにとって、社内態勢整備にひたすら追われ続けた2018年は「空白の1年間」とも呼べるものだっただろう。しかし、ようやくそれが整い、各々が再び動き出した。

エネルギー大手remixpointが2016年に立ち上げたBITPoint、次は証券業界参入か

エネルギー大手remixpointの子会社として2016年にスタートしたBITPointは、早期から中国、韓国、台湾、香港とアジアを中心にサービス対象国を拡大してきた。業界が沈んだ2018年にもマレーシア、パナマでのサービスを開始し、今年2月にもタイでの交換業ライセンス取得を発表した。国内においても1月に第一種金融商品取引業を目的とする子会社スマートフィナンシャル㈱を新設し、STO市場の発展を見越して証券業への参入を表明した。

2014年創業でユニコーン企業となったLiquidグループ、米国市場進出へ

2014年創業当初から海外に力を入れ、取引所サービスLiquid by Quoineを国内外に展開してきたLiquidグループは、今年2月に独自通貨QASHをLiquid Coin(LQC)にリブランディングした。また、4月にはシリーズCでの資金調達を終えてユニコーン企業に仲間入りしたことを発表した。さらに、5月15日には米国進出に向けた合弁会社Liquid Financial USA Inc.の新設を発表した。

業界が世間的な注目を集める前から取引所を運営してきたBITPointとLiquidは、国内規制による煽りを受けながらもその他国内交換業者と違い、着々と業容を拡大してきた。両者の命運を分けたのは、マーケットをドメスティックとグローバルどちらに捉えていたかの違いだろう。多くは、「暗号資産・ブロックチェーンはグローバル」などと表立って語りながらも、国内を第一のターゲットに置いていた。一方で、BITPointとLiquidは立ち上げ時からアジアをはじめ世界を相手にビジネスを展開し、日本の規制にも対応しながら常に前進し続けてきた。

Ripple社との連携を深めるSBI、自身としては慎重な姿勢を貫く

大手金融機関として早くから暗号資産なかでもXRPに注目してきたSBIは、2017年9月に交換業登録認可を取得しながらもハッキング騒動などがあってサービス開始の時期を遅らせていたが、2018年6月に満を持して取引所サービスVCTRADEを開始した。その後、XRP、BTC、BCH、ETHと順次取扱通貨の追加や、資産の入庫および出庫サービスの開始など、安全性を慎重に見極めながらサービスの拡充を行ってきた。

Yahooが子会社を通じて出資するTaoTao、取引所サービスを開始

TaoTaoの前身であるビットアルゴ取引所東京が規制対応に苦しむ中、2018年4月にYahooが子会社を通じた同取引所との資本業務提携を発表した。その後、密かに体制の見直しを進め、今年2月に社名変更とHPのリニューアルを発表、3月には事前登録を開始し、5月30日に正式に取引所サービスを開始した。また、Yahooは同じく子会社を通して、3月に大手業界メディアCoinDeskの日本語版CoinDesk Japanを創刊した。

楽天グループ決済事業の一角を担う楽天ウォレット、サービス提供開始も近い

2018年9月に楽天は、当時みなし業者であったみんなのビットコインの買収を発表した。その後、経営陣の入れ替えや2度にわたる増資、サービスの改善など経営基盤と業務体制を整え社名を変更すると、今年3月に楽天ウォレットとして金融庁の交換業登録認可を取得した。そして、楽天グループ全体の組織再編を行った4月には旧サービスを停止し新しいサービスサイトを立ち上げ、8月に正式に取引サービスおよびアプリの提供を開始した。楽天銀行口座を持つユーザーは簡易的に手続きができる。

新規立ち上げから間もなく交換業登録認可を取得したDeCurret、取引所サービスを開始

FX会社や証券会社向けの取引システムの開発に携わるIIJを筆頭に、国内の名だたる大企業を株主として2018年1月に資本金50億円超で設立されたDeCurretは、規制をものともせず新規参入者としては異例とも言える早さで、今年3月に金融庁の交換業登録認可を取得した。そして「JR東日本発行の交通系ICカードSuicaなどに暗号資産でチャージできるサービスを検討」と話題を集めると、4月には取引所サービスを開始。8月には電子マネーチャージサービスを新たに開始している。

今年に入り、新たな国内四大交換業者として頭角を現してきたのがSBI、Yahoo、楽天そして大企業連合とも言えるDeCurretである。

SBIは、業界関連企業への投資活動やRipple社と連携した金融決済網の構築に向けた活動を積極的に行う中で、自ら交換業に乗り出した。金融×大企業体質で漸進的ではあるが、今後既存の金融ビジネスとの接続に動くことは言うまでもない。Yahooと楽天もまた、既存のメディア事業、EC事業に絡めてサービスを展開するだろう。業界参入時点で既に、彼らは旧・四大交換業者が抱える顧客口座数を凌ぐ巨大なユーザーベースを保有しているのだ。
一方で、合弁で新たに立ち上がったDeCurretはユーザーを一から確保しなければならない。しかし、大企業資本によって支えられている同社は、「現金を使わない生活を、ふつうに」をビジョンに掲げ、電子マネーチャージをはじめとするあらゆる決済シーンでの暗号資産の利用促進に動くと予想される。実際に既存の決済サービスと暗号資産との橋渡しが実現されれば、日常生活における実需が膨らみ、ユーザーは自ずと増えていくだろう。

2018年に国内でハッキング事件が起きて以降、金融庁による規制環境整備が進行し、一ベンチャー企業だけでは日本で暗号資産交換業を営むことが難しくなってしまったことは確かな事実である。しかし、このことは日本からBinanceやCoinbaseのような巨大スタートアップが生まれない理由と必ずしも直結しない。金融庁が日本のビジネス機会を奪っていると指摘する声もあるが、remixpointやLiquidグループのように、このような規制環境であっても事業を拡大し続けている日本企業があることに目を向ければ、それは単なる言い訳もしくは自らビジネスセンスが無いと露見しているようなものである。逆を言えば、両社は変化する業界のビジネス環境を適切に見極めることができた数少ない日本企業であったということだ。

国内に限って言えば、これからの暗号資産交換業は、この業界と他業界とを繋ぎ合わせる形で、大企業主導に発展していくと思われる。そもそも投資マインドの育っていない日本では、取引所としてのトレード機能の優位性がユーザーを惹きつける面は小さい。2017年に使いやすさからCoincheckが一番の人気を集めたことからも、そのことがわかるだろう。とはいえ、UI/UXで人を集めるには限界がある。また、交換業者として海外取引所のように多くの通貨を扱い、さらには独自トークンの発行やDEXサービスなどを始めることも現状の日本では難しい。つまり、業界単体でスケールする術がこの国にはもうほとんど残されていないのだ。

別世界で膨大なユーザーベースを持つSBI、Yahoo、楽天などの巨人が入り込んできた今、小さな世界で小人たちが争う時代は終わった。これからは業界横断的に交換業を展開するプレイヤーが勝ちをおさめる時代だ。その点では、日本は海外を先行していると言えるのかもしれない。

コメントを残す