中国の仮想通貨規制を時系列で解説:デジタル人民元を許容する訳とは

島田 理貴

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以前、同メディアで中国政府が注力している「デジタル人民元(DC/EP)」の詳細をとりあげた。同記事からもわかるとおり、デジタル人民元はきわめて異様な速度かつ規模で、ローンチに向けた準備が推進されている。先月末には、世界的な新型コロナウィルスの流行による経済的混乱に向けた金融政策の一つとして、デジタル人民元を活用しようという動きも伝えられている。

他方で、中国政府は暗号資産の取引やトークンを利用した資金調達、エコシステムの形成などに対して、厳格に否定的な態度を示している。2017年9月に発生したビットコインをはじめとした仮想通貨(暗号資産)全体の暴落(いわゆる「チャイナショック」)は、中国政府が仮想通貨を全面的に禁止する政策を発表したことによるものだった。

先日マネックスクリプトバンクは全97ページのレポート「中国におけるブロックチェーンの市場動向と将来予測(2020)」を発行しており、同レポートでは、ブロックチェーンおよび暗号資産に対する中国の規制、政策、未来予測などのトピックについて、それぞれ詳細なリサーチがおこなわれた。

今回は、同レポートを参照しつつ、中国の仮想通貨(暗号資産)に関する規制を概観し、ブロックチェーンに対する姿勢を考察する。より詳細な情報については、同レポートを参照されたい。

2013年12月、ビットコインに対する警告

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2013年12月、中国人民銀行(PBoC)、産業情報技術省、中国銀行監査委員会、中国証券監査委員会、中国保険監査委員会といった政府機関が合同で「ビットコインのリスク防止に関する通知」を公示した。

これは、ビットコインの決済機能を事実的に封じ込める効果を有していた。具体的には、ビットコインによるサービス価格の決定、ファンドや保険商品等の金融商品への組入れ、決済ツールとしての仕様などを禁止項目として挙げており、ただし、リスクを負うという前提での個人購入については自由とされた。

また、近年の暗号資産取引所の大半がそうであるように、取引所の届け出とKYC(Know Your Customer、本人確認)が義務付けられた。

2017年9月、ICOの全面的禁止

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2017年はもっともICOが活況の年であった。この年に、BraveブラウザーのBATトークンによるICOは、わずか30秒足らずで約3,500万ドルを調達し、Filecoinは2億5700万ドルを調達した。これらの資金の一部には当然チャイナマネーも含まれていただろう。

このように、ICOはBraveやFilecoinのような絢爛を世界にみせつけたが、しかし、他方では悪辣とした世界の有様も露見させた。SATIS Groupが公開している2017年に実施されたICOに関するレポートでは、70%以上の資金がより質の高いプロジェクトに流入したことが確認されたものの、80%以上のプロジェクトが「詐欺」と認定された。

真新しい技術、新興の通貨、定義されていない用語――これらには出鱈目な儲け話がつきものだ。2017年から2018年にかけて盛況をみせたICOであるが、それは大きな混乱をもたらし、そして政府の介入をよびこんだ。

なかでもいち早く規制に乗り出したのが中国であった。PBoC、サイバースペース管理局(CAC)、産業情報技術省、国家工商行政管理総局、中国銀行監査委員会、中国証券監査委員会、中国保険監査委員会といった政府機関は、2017年9月、「トークン発行の資金調達リスクの防止に関する発表」を通達した。

しかし、この規制はICOだけにとどまらず、トークン発行およびトークンによる資金調達全てを禁止し、さらに取引業務に関しても全面的な禁止措置をとった。この規制によって中国国内に居住する限り、既存のトークンを個人保有することはできたとしても、国内取引所を利用した取引は違法行為として厳しく罰せられることとなった。

これによって、中国に本拠していたほとんどの取引所が閉鎖され、一部はそのまま事業を畳み、また一部は後日、中国国外への移転を実行して再スタートを切ることとなった。

2019年11月、再度取引所への警告

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2019年11月、深圳地方金融監督管理局は「仮想通貨の違法行為を防止するために」と題される警告をおこない、その後、PBoC上海本部も「仮想通貨取引の監視に関する通知」を通達した。

これらは先の「トークン発行の資金調達リスクの防止に関する発表」に則るものである。概していえば、2017年近辺に横行した詐称的なICOが再熱してきていることを背景に、 ICOの実行体や取引所に加え、そのような事業体にサービス提供する事業者も含めて、再度事業停止を要求するものといえるだろう。

2019年12月、改めてICOプロジェクトを規制

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2019年12月、北京金融監督局、PBoC経営管理部、北京銀行保険監督局、北京証券監督局らが合同で「北京での暗号取引活動の防止に関する通知」を発布した。これも前述の「トークン発行の資金調達リスクの防止に関する発表」を改めて強調するものである。

同年11月に発布された2つの警告とあわせて、これらは、あくまでも「ブロックチェーンプロジェクト」と銘打って、ICOではないことを強調しつつ、ICO同然の手法で資金調達ないし詐称行為を継続している事業体を念頭としていた。

2020年1月、「暗号法」制定

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2020年1月、「暗号法」とよばれる法律が制定された。これは情報技術における暗号化アルゴリズムを「核心暗号」「一般暗号」「商用暗号」の3つに分類し、核心暗号と一般暗号を中国政府が厳格に管理する国家機密に該当するものとして、商用暗号を個人や法人が情報やネットワークの保護のために利用するものとして定義している。そのうえで、前者を国家機密情報保護の観点から、後者を個人情報保護の観点から、それぞれに厳格な規定を設けた。

同法は、一部ではブロックチェーンや暗号資産、デジタル人民元などに関わるものとして理解されているが、しかし、そのようなことを示唆する文言は条文には存在せず、その意図は表面的なことしかわかっていない。

おわりに:中国は分散化と集権化の矛盾をいとも簡単にクリアする


中国における暗号資産をめぐる規制について、時系列順に概観した。大雑把にまとめてしまえば、中国はやはり暗号資産ないしブロックチェーンのしくみを利用して発行されるトークンに対して、きわめて厳しい姿勢を一貫して保っており、他方でブロックチェーンという技術自体については規制の枠外に置いているといえるだろう。

考えてみれば、中国は擬似的な一党独裁体制を敷いており、諸外国と比べてもとくに中央集権的な様相を呈しているのであって、その体制を継続するために、あらゆる分散的システムを排除することは合理的な判断だろう。

レポート内でも詳細に語られるが、中国のブロックチェーン産業はコンソーシアムチェーンに比重をおいており、あくまでも「管理された分散」を実現する技術としてブロックチェーンが位置づけられている。その意味では、中国がブロックチェーン産業を促進することと、現体制を継続することには、なんら矛盾を生じさせない。

そしてまた、中国が暗号資産やトークンを排除することと、デジタル人民元を推進することも、デジタル人民元がPBoCの完全な管理下に置かれていることを鑑みれば、やはり1つの矛盾も見出だせないのである。

さて、レポートでは、規制に関するさらなる詳細な情報や、デジタル人民元の詳細、さらには中国におけるブロックチェーン産業の全体をミクロな視点とマクロな視点の双方から考察している。国内でブロックチェーンに関係するビジネスや研究に携わる人や、中国市場に並々ならぬ関心を抱いてる人にはぜひとも一読していただきたい。

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