ビットコインETFとは?承認されると市場が動く?金融庁は断固NO

島田 理貴

ビットコインのイメージ

近年、暗号資産市場で注目度が高まっているビットコインETFだが、読者のなかには「ETFって?」という人もいるだろう。ETFについて知識があっても、それが規制当局に承認されることでビットコインをはじめとする暗号資産市場にいかなる影響を及ぼすのか、いまいちピンとこない人も多いことだろう。

今回は、このETFと暗号資産の関係を紐解いてみたい。後半ではETFにかかわる規制当局の動向を追跡し、その是非も考えてみたい。

そもそもETFとはなにか

質問のイメージ
ETFとは、Exchange Traded Fundの略で、日本語では上場投資信託とよばれる。つまり、投資信託の一種であるのだが、投資の世界では、「投資信託」と「ETF」という言葉をつかいわけることが多い。

というのも、上場の有無で、投資家の目にはまったくちがうものとして映るからだ。たとえば、ETFは価格がリアルタイムで変動するが、未上場投資信託の場合は、一日に一回だけ算出される基準価額において、購入や換金が実行される。

また、売却するタイミングにおいても、ETFは株式や暗号資産同様に、買い注文と売り注文がマッチングしていればいつでも売却できる一方、未上場信託の場合、そもそも売却には「解約」と「買取」という2つの方法があり、また一定期間は解約ができない「クローズド期間」が定められていたり、解約ができず償還期限まで待つしかない「クローズドエンド型」の投資信託も存在したりする。

このように紹介すると未上場投資信託にメリットがないようにもみえるが、たとえば、ETFのほうが最低購入金額が高くなる傾向があるとか、つみたてNISA対象商品においてETFの取扱いがきわめて少ないとか、ETFでは分配金があるために福利効果が生じにくいといったこともあり、一概にどちらがいいということはない。

ビットコイン(Bitcoin)の投資信託って?

投資のイメージ
さて、「ビットコイン投資信託」であるが、これは、基本的にビットコインに投資する投資信託全体を指している。インデックスを追跡することをめざすパッシブファンドもあるだろうし、ベンチマークを上回ることをめざすアクティブファンドもありうる。

また、ビットコインに限定せずとも、複数の暗号資産に分散投資するものもあれば、時価総額上位の暗号資産を基準に開発されたインデックスを追跡するファンドもある。

ビットコインETFの承認がどうなるかという話題ばかりが加熱しているため、ビットコイン投資信託がないと思い込んでいる人もいるかもしれないが、じつは、ETF以前にもビットコインや暗号資産に投資する投資信託はいくつか存在している。

現状、まだ機関投資家や適格投資家向けの商品がほとんどだが、なかには一般投資家を受けつけているものもある。

ETFの承認とは?

承諾のイメージ
投資信託のなかには金融規制当局に審査され承認を受けているものもあれば、そうでないものもある。だが、ETFの場合、その名のとおり「上場」しなければならないため、必然的に上場の申請、審査、承認というプロセスを経る必要がでてくる。

そして、昨今話題になっているのは、米規制当局SEC(米国証券取引委員会)に対する上場申請プロセスである。

2017年3月に暗号資産取引所Gemini(ジェミニ)の共同設立者であるウィンクルボス兄弟は、世界初のビットコインETF上場申請をおこなった。だが、SEC側は承認審査の末、この申請を却下した。

この一件を皮切りに、GraniteSharesやProshares、Direxion、VanEck、BitwiseなどもビットコインETFの組成に乗り出し、上場申請をおこなっているが、記事を執筆している2月の段階で、SECによって承認された事例は1つもない。

ビットコインETFが承認されるとなにが起きるのか

上昇のイメージ
それにしても、なぜここまでビットコインETFが大々的に取りあげられているのだろうか。

そもそも一般の個人投資家に投資信託が人気な理由は、少額で手間なく分散投資を実現できるからであり、ビットコインだけに投資する投資信託は一見すると、ただ手数料や信託報酬を支払うばかりでメリットが薄いようにもみえる。

だが、ここで重要なのは一般の個人投資家ではない。人びとがビットコインETFに注目するのは、それを機関投資家参入への起爆剤としてみているからである。

というのも、機関投資家の多くは、ボラティリティの高さやセキュリティリスク、規制環境の不安定さなどへの懸念から、依然として暗号資産市場への参入を躊躇ったままでいる。機関投資家は安心を欲しているのである。

この状況にあって、ビットコインETFが承認された場合にはどうなるだろうか。

まず、SECからビットコインETFは「証券」であるという資産クラスの分類が提示されたことになる。したがって、規制環境の懸念が1つ解消されるだろう。

また、単純に市場規模の大きい証券取引所の枠組み内で暗号資産を取引できるようになるということでもあるため、ビットコインの流動性向上が期待できるだけでなく、暗号資産取引所にまつわるカウンターパーティリスクが軽減されることになるだろう。

その他、SECの厳格な審査は、ETFのバックグラウンドに、より信頼できるカストディアンや、より高度に合理化されたトレード手法があることの保証にもなりうる。個人投資家にとっても機関投資家にとっても、このような保証はきわめて重要な判断基準になるだろう(もちろん、SECの審査だけでなく自分の目で運用方針を確認した上で投資判断をするべきだ)。

これらの事情から、ビットコインETFはビットコイン市場に機関投資家を招き、市場の活性化に一躍買うのではないかという見方がなされているのである。

SECは今後どのように対応していくのか:SEC側からクリプトママが誕生

アメリカのイメージ
このように注目が集まるビットコインETFであるが、残念なことに、その上場申請はことごとく失敗している。

しかし、悲観的なニュースばかりではない。たとえば、SECがウィンクルボス兄弟によるビットコインETFの承認を否決したことは先ほど述べたが、このとき、SEC内部でも意見がまとまっていなかったことが判明している

SECのコミッショナーであるHester M. Pierce氏は、この議決に対して「(申請者が)提案する規則の変更は取引所法第6条(b)の要件を満たしている」、「不承認の命令は市場の制度化を阻害する」、「不承認の命令によりイノベーションが抑制される」などと異議を表明している

この異議表明は暗号資産コミュニティから好感を買っており、Pierce氏は一部から「Crypto Mom(暗号資産の母)」とよばれるようになっている。

また、SECのJay Clayton氏は、2018年11月に米CoinDeskが開催したカンファレンスにて、主要証券取引所が導入しているシステムと同等の水準の「市場監視の欠如」が解決される必要があると述べている

このClayton氏の発言は、ビットコインETFの可能性が閉ざされていないことをしめしもする。実際に、暗号資産業界では、AML(アンチマネーロンダリング)やKYC(本人確認)に関するしくみや、カストディサービスの開発が急ピッチで進められており、SECのような規制当局サイドと歩調をあわせる格好となっている。

とはいえ、Clayton氏はこれらの業界の動向を鑑みた上で、依然としてカストディサービスを「改善および強化する必要がある」と述べており、上場への道のりがいまだ易しいものではないということが予感される。

日本でのビットコインETF解禁はあるのか

金融庁のイメージ
米国ではいまだ決着のついていないこの問題であるが、国内では、金融庁がスタンスを明確化しており望みは薄そうだ。

というのも、海外メディアのnews.Bitcoin.comは、今年2月に金融庁に対して「改正金商法のもとで暗号資産ETFは許可されるのか」と質問を送ったのだが、これに対して、金融庁から「主に暗号資産に投資する商品は「投資信託」の法的定義に対応していないため、そのようなETFは作成できない」という回答があったのだ。

加えて、金融庁は「ガイドラインは、特定の資産(内閣指定の証券、不動産など)以外の資産に投資する投資信託の組成、販売を認めていない……暗号資産は特定資産として定義されていない」とも回答している。

さらに、暗号資産に「主として」投資しているわけではないが、一部に暗号資産が割当てられた投資信託についても、「こうした商品の組成と販売には慎重に対応する必要があると考えている」と回答している。また、この「主として」という表現についても、それは「総資産の割合に基づいて判断することはできず……たとえば収益への貢献度や投資家へのアピール力など、包括的な範囲内の要因」から判断されるものであるとしている。

このような金融庁の暗号資産ETFへの態度の硬直化には、その背景に、パターナリズム的な投資家保護の観点があるだろう。

2月12日には、国内暗号資産メディア4社が、改正金商法の施行を念頭に置いた共同声明を発表した。

この声明のなかで、弁護士の長瀨氏は「最近の金融行政は、投資判断を完全に投資家の自己責任にゆだねるというより、もっとパターナリスティックな観点からの介入を認めるようになってきていると思う」と述べている。

パターナリズムが一概に「悪」というわけではない。実際に投資家保護は必要だと思われるし、近年の国内暗号資産業界におけるセキュリティ意識の高まりや、それに付随する不正流出事件の減少は、法規制や規制当局からの要請を要因とするところも大きい。

だが、子が父親に信号機の意義を問うたとき、父親には説明責任が生じるように、金融庁が我々を「ビットコインETF」や「高レバレッジ」から守ろうとするのならば、そもそもなぜそれらが脅威となりうるのかについて、納得のいく説明がなされなくてはならない。

といっても、このような問題は日本だけではなく、暗号資産のような「新しい資産」が生ずるところではどこでも起きている。SECも説明責任を果たしていないと糾弾されることがままある。

こういった問題は、おそらくどのような形であれ、ビットコインをはじめとする暗号資産とよばれるものの定義が公的に定められていく過程で、あるバランスに収束していくだろう。そして、なによりも重要なのは、この収束地点を決めるのは規制当局だけではないということだ。

「クリプトママ」がコミュニティの支援を背後につけること、国内メディアが結託して声明を発表すること、投資家が健全な資産運用を心がけること……。さまざまな抵抗力がありうるのであり、決して金融庁のスタンスがすべてではないということを肝に銘じて、ビットコインならびに暗号資産ETFの今後を見守っていきたい。

コメントを残す